2個ないし4個のウクライナ軍旅団が参加しているこの作戦は、陽動かもしれない。もしそうだとすれば、ロシア軍に多くの連隊を東部からこの方面に転用させる必要がある。ヘリンは、東部の支援のためには、スジャ方面のウクライナ軍部隊はその2〜3倍の規模のロシア軍予備部隊をドネツク州から引き寄せることが求められるとみている。
ウクライナ北東部ハルキウ州を攻撃しているロシア軍の北部軍集団が、東部からの増援によらず侵入部隊の前進を封じ込めることができれば、ウクライナの陽動作戦は失敗したことになる。
一方、この攻撃が陽動ではない可能性もある。ロシアの領土を獲得し、保持する本格的な試みなのかもしれない。現時点ではそのように見えるのも確かだ。
この場合、最終的な目的は外交にかかわるものだろう。ロシアの領土をほんのわずかでも占領していれば、ウクライナは将来、和平交渉を行う際に、ロシアに占領されている自国領と交換できる可能性がある。
あるいは、ウクライナの作戦立案者はそもそも和平交渉のことなど考えていない可能性もある。たとえ大きな危険を冒してでも、ロシアへの侵攻を継続したいと本気で考えているのかもしれない。
ブラックバード・グループのエミル・カステヘルミは「ウクライナが北東部の国境地帯で主導権を握ろうとする場合、後続作戦が実施される可能性がある」と説明する。「クルスク州で混乱を引き起こし、ロシア側に対応を余儀なくさせたあと、ウクライナ側はどこかほかの場所でも攻撃を試みるかもしれない。もっとも、もし投入可能な部隊がまだ残っていればの話だが」
しかし、現在のウクライナ軍にそうした兵力の余裕はないのではないか。ウクライナ側が何を目論んでいるのであれ、この作戦が危険なことに変わりはない。米フィラデルフィアにある外交政策研究所のアナリスト、ロブ・リーは「ウクライナ軍の指揮官は、すでに圧迫されている部隊を増強するにせよ、突破を押しとどめるにせよ、使える兵力は限られる」と指摘している。