約束を思い出すと、後悔と罪悪感にさいなまれ、目標を達成できなかった自分を責め始める。
これは、共感ギャップと呼ばれるものだ。私たちは、現在と将来では精神状態や感情が異なることと、そして、今とは違う精神状態や感情が、将来の行動に影響を及ぼすことを過小評価する傾向にある。その結果、私たちはしばしば、決断を下したり、目標を設定したりするときに、将来の気分については考えず、現在の気分にのみ基づいて行動してしまう。
「熱さと冷たさの評価ギャップ」とも呼ばれるこの現象は、人がしばしば、自分自身や他者の行動や嗜好を、現在の自分の心の状態に基づいて判断してしまうために起きる。
言い換えれば、空腹や欲求、恐怖といった強い感情(熱い状態)が自分の行動や嗜好に与える影響を、理性的で冷静な心(冷たい状態)で過小評価したとき、共感ギャップが生まれる。逆に、感情的なときには、自分の感情がどれほど自分自身に影響を与えているかを認識できず、自分の嗜好は安定していると信じ込んでしまう。
以下では、共感ギャップを埋め、より良い結果を出すための方法を3つ紹介しよう。
1. 目的設定時には「非常時用の余裕」を確保して、自信喪失を防ぐ
アイデンティティー(自分はどういう人間か)について考えるとき、人はしばしば、冷たい心で、非常に高い目標を設定する。しかし、こうした野心は、「純粋コンプレックス」につながりかねない。つまり、目標達成計画の項目をすべてクリアできなければ失敗したように感じ、目標そのものを捨ててしまいたくなることだ。学術誌『Organizational Behavior and Human Decision Processes』に発表された2021年の研究によれば、目標設定において「非常時用の余裕」を確保しておくことは、失敗した後の粘り強さを著しく高める。こうした余裕は、挫折を感じずに前進することを助け、たとえ挫折を経験しても、目標にもっと本気で取り組む気持ちにさせる。
例えば、ジムに週7日通いたいとしよう。そして、非常時には2日まで休んでもいいことにしよう(体調を崩した、スケジュールが立て込んでいる、気分が乗らないなど、理由はなんでもいい)。
このようにして、現在の自分と将来の自分のあいだにある共感ギャップを埋め、人生はそういうものだと認めよう。たとえ1日休んだとしても、「ジムに通う人」としてのアイデンティティーが脅かされることはない。それは想定内のことだ。
2. 「やってはいけないこと」ではなく、「やること」で目標を組み立てる
「行動を控える」のではなく、積極的に行動する方が、進捗を測定しやすい。例えば、「ジャンクフードを食べない」という目標は測定が難しく、奮起しにくい。「もっと健康的な食生活をしたいから、まずは毎食サラダを食べよう」という方針の方が、追跡しやすく、やる気を起こしやすい。研究によれば共感ギャップは、自己コントロール、社会的判断、意思決定に影響を与える。このことは、強い欲求の影響を受けると、人はしばしば目標を守ることができなかったり、誤った判断を下したりする理由の説明になる。
現在の行動をやめようとするより、新しい行動を生み出すことに焦点を当てた、前向きな目標を設定した方が効果的だ。欲求を止めようとすることは、途方もなく大きな障害のように感じられ、持続可能ではない。一方、現実的で達成可能な小さな目標を設定して、新しい行動を生み出すことは、気軽に取り組むことができ、やりがいも生み出す。