アイバン・ザオ(37)は、ワープロでも白紙でできるのと同じようなことができるはずだとの考えに基づいてNotion(ノーション)を立ち上げた。2013年のシード・ラウンドでもザオは、論点からずれた紙の歴史について延々と話した。それでも、Forbesの投資家リスト「ミダス・リスト」の常連でファースト・ラウンド・キャピタルの共同創業者であるジョシュ・コペルマンは感銘を受け、集まった投資家のなかでも最も多額の200万ドルの投資を決めた。
だが15年の夏、Notionの資金は尽きかけていた。創業から2年たってもザオが開発したソフトウェアエディタNotionは、世の理解を得られなかった。
会社の存続のための最後の手段として、ザオと共同創業者のサイモン・ラスト(30)は従業員全員を解雇し、サンフランシスコのオフィスをまた貸しして京都に移った。ザオの母からの緊急融資15万ドルを手にふたりは、再起をかけてNotion 1.0の開発に打ち込んだ。それは、ソフトウェアエディタ機能は残していたが、むしろオフィス業務用ツールのようだった。Google Docsを少し発展させたようなもので、複数の利用者が編集可能なウェブページをつくったり、To Doリストを管理したりできた。
16年8月、最新プロダクトを紹介するアプリ「プロダクト・ハント」で発表されると、Notion 1.0はすぐに人気を博した。無料アプリだが、パワーユーザーには月間約8ドルを課金する仕組みで、数週間のうちに利益を生むようになり、シリコンバレーで最も話題のスタートアップのひとつになった。
その年の10月、ザオとラストはサンフランシスコに凱旋した。Notionは、口コミだけで世界中で使われるようになり、ユーザーの80%は米国以外に住む人だった。19年にはユーザー数が初めて100万人を超えた。学生の間では、To Do リストをつくったり、講義でノートをとったりするのに利用されていた。デザインにこだわりのある起業家は、従来型のプレゼンテーションの代わりに使うようになり、アーティストは自らの作品をディスプレイするために使った。YouTubeには多くのオプションがあるこのアプリを使いこなすための「私のNotion活用法」を指南する動画があふれた。
ザオによれば、ユーザー数は現在、1億人に届く勢い。Forbesの試算では、昨年の売り上げは2億5000万ドルに上り、利益を上げ続けている。
Notionがバズるようになっても、ザオはこの規模のスタートアップとしては異例の大きな支配権を維持している。同社にはベンチャー・キャピタルの資金約3億3000万ドルが投入されているが、資金を提供した投資家はひとりも経営陣に加わっていない。多くのベンチャー・キャピタリストが投資を申し出ているが、ザオは経営陣に迎える必要性を感じていない(22年に、外部から初めて会計監査人が加わった)。そして、Notionが長期にわたり高い収益を上げてきた結果、ザオは新株発行などに頼ることなく資金を調達することができた。Forbesの試算によれば、ザオは今も支配権の少なくとも30%、金額にすると15億ドルを保有している。18年に入社したアクシェイ・カタリ(37)とラストは共に肩書は共同創業者だが、実際の創業よりも後に加わったため、持ち分はザオを下回る可能性が高い。