AI

2024.08.10 13:30

「何でもできる」アプリNotionはAIでどこまで進化するか?

パンデミックで先行きが不透明になるまで、ザオは万一に備えた資金調達にも腰を上げなかった。それでも20年2月にザオが資金調達を開始すると、36時間もしないうちに評価額は20億ドルに跳ね上がり5000万ドルの投資が集まった。21年10月も同様で、コーチューとセコイアから2億7500万ドルを調達できた。

22年10月、ラストは親しくしているオープンAIの関係者からAIモデル「GPT-4」への早期アクセスを提供するという連絡を受け取り、ザオとともにホテルに何日もこもって他社に先駆け、最低限の機能を備えたAI文章作成アシスタントをつくり上げた。
 
翌23年、Notionはアプリ内に保存された情報を取り出すことができるQ&Aボットを発表。同社のAIツールはGPT-4やアンスロピックのクロードをはじめ、いくつかのオープンソースのAIモデルを採用しており、現在では、オフィス業務用アプリの最前線を走っている。AI機能を使用するには月8ドルが必要だが、数百万人が試している。これまでのところNotionは「希望していた最高のレベル」より潤っているとザオは話す。
 
とはいえ、競合はハイテク界の最大手ばかりだ。グーグルは業務パッケージに数十ものAI機能を組み込み、マイクロソフトの新しいコラボレーション・アプリのループは不気味なほどNotionに似ている。この先AIがどのように進化するかは誰にもわからないが、次のステージで勝つには、チャットのようなインターフェイスの先を見据える必要があるだろう。Notionと密に協力してAIの組込みを進めたオープンAIの担当者は言う。

「我々は、Notionのようなスタートアップがそれを発明すると強く確信しています」

ザオは、Notionをユビキタスなツールとして、仕事から日常生活まで、あらゆる場面で使ってもらえるようにしたいと考えている。実はザオは10年前の投資家向けピッチで、マイクロソフトやグーグルなどの大手を完全に退場させると豪語したが、今ではそれは現実離れした考えだったと認めている。

ただし、全面的にではない。

「例えば弁護士はこの先もマイクロソフトのWordを使い続けるかもしれません。でも、仕事の別の部分ではNotionを使うかもしれませんよね」(ザオ)


Notion◎2013年にアイバン・ザオが設立した。ウェブページの作成からTo Doリストの管理、本の執筆までなんでもできる情報アプリ「Notion」を開発する。15年には一度資金が尽きかけたが、サンフランシスコの拠点を引き払って京都で開発し、16年8月に発表したNotion1.0が人気を博した。現在、ユーザー数は1億人に迫る。

アイバン・ザオ◎Notionの共同創業者兼CEO。17歳で母親と共に中国からカナダに移住し、ブリティッシュ・コロンビア大学で認知科学を専攻。電子教材のスタートアップInklingで1年働いた後、2013年にNotionを設立した。創業当時はオフィスで靴を履かない社内ポリシーをつくっていたほか、椅子にはこだわりがある。

アクシェイ・カタリ◎Notionの共同創業者兼COO(最高執行責任者)。インド在住でLinkedInのインド事業を統括していたが、2018年の投資家向け説明会でザオからCOOをオファーされ、家族とカリフォルニアに移住。セールス、採用、財務の各チームを立ち上げ、共同創業者のタイトルを与えられた。エンジェル投資家でもある。

文=ケンリック・カイ 翻訳=フォーブス ジャパン編集部 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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