AI

2024.08.10 13:30

「何でもできる」アプリNotionはAIでどこまで進化するか?

18年にスプレッドシートとデータベースをリリースして以降、Notionは大きなプロダクトを出していないが、今年中にはNotion3.0を発表する予定だ。同社は生成AIを積極的に取り入れ、Forbesの第6回「今年の注目すべきAI企業」50社(AI 50)にも選ばれている。今後Notionのユーザーは、情報を保存した位置を覚えておかなくても、ボットに尋ねるだけで必要な答えを得られるようになる。ザオは、ボットは脳の延長のようなものだと話す。

「もう、どんどん忘れてしまってかまわないのです」

ザオはNotionを、オフィス用の何でもできる情報管理アプリへと発展させようとしているのだ。現在、市場はマイクロソフトとグーグルが支配しており、ガートナーによると520億ドル(22年の売り上げ)に上るオフィス業務向け総合ソフト市場の99%をこの2社が占めているが、いずれはNotionが両社を脅かす存在になるかもしれない。

「我々の競合は業界全体です。レゴをつくっている会社の競合は、おもちゃの飛行機とおもちゃの車のどちらでしょうか。答えは両方です」(ザオ)
 
企業用AIソフトの市場は今後10年で1兆ドル規模に成長する可能性があると予想するアナリストもいる。ザオには、Notionをマイクロソフトやグーグル同様に永続的な事業にしたいという野心がある。

ベンチャー・キャピタリスト嫌い

17歳で母と共に中国からカナダに移住したザオは、ブリティッシュ・コロンビア大学で認知科学を専攻した。地元のハッカー仲間とウェブ開発を学んだりしていたが、友人に写真を展示するためのポートフォリオ・ウェブサイトの設計を頼まれたのをきっかけに、誰でも簡単にポートフォリオやタスク・トラッカー、複雑なデータベースなど、何でも簡単につくることが可能な自由自在なエディターをつくろうと思いついた。

ザオはシリコンバレーで1年間、電子教材のスタートアップInkling(インクリング)で職務体験をした後、試作品もないNotionの売り込みを始めた。そのきわめて明瞭なビジョンはカタリを含むエンジェル投資家をうならせた。Inklingの共同創業者でザオに5万ドルを投資したマット・マキニスは言う。

「彼には、ものごとはこうあるべきだという独特のテイストがあります」

例えば、靴を履かないという社内ポリシーや、オフィスの家具を自ら選んだことなどだ。特に、椅子には妥協しなかった。お気に入りはアアルトによる1933年物のスツールで400ドルもするが、それはザオがNotionに求めるシンプルさと汎用性を体現している。彼をよく知る人はNotionが大成功しても、ザオは以前と変わらないと口を揃える。今もNotionのオフィスの家具はすべて彼が選んでいる。靴については妥協したが。

「Notionは、彼の価値観と創造への衝動の表れです。だから売却したがらないのです。上場を言い出すことさえ想像できません」(マキニス)
 
ザオは「ベンチャー・キャピタリスト嫌い」と見られている。初期の投資家のシャナ・フィッシャーから、開発と採用に時間を割いたほうがいいと説得されたことがあるという。フィッシャーは「忍耐強く進めれば、大成功できる」と言ってくれたのだ。
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文=ケンリック・カイ 翻訳=フォーブス ジャパン編集部 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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