主人公のライリーは高校入学を控えた女の子。彼女の頭の中の司令塔で過ごしていたヨロコビやカナシミは、思春期を迎えて新しく芽生えた大人の感情であるシンパイやダリィなどによって追放されてしまう。彼らに頭の中を支配され、自分らしさを失いかけているライリーに「感情の嵐」が訪れる、というストーリーだ。
日本での公開に合わせて、ピクサー・アニメーション・スタジオのチーフ・クリエイティブオフィサーを務めるピート・ドクターが来日。『トイ・ストーリー』初期脚本を執筆したり、『モンスターズ・インク』で監督を務めたりと、世界の人々を魅了する作品を生み出し続ける彼に、頭の中の「シンパイ」とどう付き合えばいいのか、そして仕事でクリエイティビティを発揮し成功に導くためのヒントを聞いた。
──仕事やビジネスの場面では、頭の中を心配事に支配されてしまう人も多い。多くの映画作品を責任ある立場で成功させてきたピートさんは新しいことに挑戦するとき、プレッシャーをどのように捉え、どう乗り越えているか。
まずは、自分が「今」取り組むべき仕事は何であるかをよく見ること。心配とはすべて未来のことに対して生じるものだから、心配になったら一度立ち止まり、自分の意識を、未来のことから今目の前でリアルに起きていることに集中させていく。「現在」にフォーカスすることが、自分にとっては心配を減らす方法だ。
──「結果を出さなければならない」「成功したい」という考えについてはどうか。今にフォーカスするとはどういうことか。
そういったプレッシャーを感じることはもちろんある。私が常に直感的に行ってきたことのひとつで今はより意識しているのは、「成功」をどのように定義するかということだ。
その映像作品を好きになってもらおうと思っても観客をコントロールすることはできないし、その作品がお金を稼げるものなのかは世の中に出してみないとわからない。だから、自分の内なる判断、直感に従うべき。何よりもまず自分が満足できるものをつくることが大切だ。
ピクサーの映画の制作工程は独特で、まずストーリーを練り、絵コンテに落として効果音や音楽を加えて、映像化し、内部で上映会をする。それについてみんなで意見を言い合いまた作り直すという作業を7、8回繰り返す。うまく成立していないなと思ったら落ち込むこともあるが、また考え直して、最終的には自分たちが誇れるものをつくることが大切なのではないかと考えている。