それ以来、ロシアは輸出市場をアジアにシフトするなど、さまざまな方法で制裁を逃れようとしてきた。中国がロシアと強気で渡り合うためにこの状況を利用していることから、これには賛否両論がある。だが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は今、制裁を回避する別の方法を見つけたかもしれない。ロシア、そしてベラルーシも天然ガスをそのまま輸出するのではなく、天然ガスが主原料である肥料を輸出するという手だ。
ウクライナ侵攻以来、ロシアの肥料輸出の収入は急増しており、侵攻後の最初の数カ月だけで70%も増加した。このような収入は、制裁によって減少するだろうという多くの予測があったにもかかわらずだ。侵攻後の欧州の天然ガス需要の多くを米国からの液化天然ガス(LNG)が埋めている一方で、ロシアは天然ガスの多くを肥料に回した。肥料を製造するには多くの天然ガスを使う。実際、天然ガスは一般的な肥料会社の運営費用の70〜80%を占めている。
ロシア産の肥料が欧州に大量に輸入された結果、エネルギー面でロシアに依存しないよう懸命に努力してきた欧州が、さらに重要なコモディティである食料の面でロシアに依存するようになるのではないかという懸念が強まっている。それを防ぐために、欧州連合(EU)に輸入できるロシア産の肥料の量を制限しようという声が欧州で高まりつつある。
だがこれは別の危険性をはらんでいる。EUやオランダ、フランスなどの選挙では、上からの命令に対する懐疑的な見方が目立った。西側諸国の政府は、西側諸国、特に欧州がロシアの侵略の脅威にさらされていることを農家にもっとうまく伝える必要がある。ウクライナだけでなく、バルト諸国を含む北大西洋条約機構(NATO)の加盟国も脅威にさらされている。
ロシアは大量の安価な天然ガスを肥料に変えている。肥料を販売してロシアは戦費を稼いでいる。はるか昔から、政府の使命は何よりも安全保障の確保だった。ロシアの肥料に対する制裁の発動は、欧州の安全保障を強化しつつ、ロシアが過去に天然ガスでそうしたように、肥料を武器化する可能性を回避しながらの国家安全保障上の決定となる。