同記事で馬田さんは、国内のベンチャーキャピタルファンド(VCファンド)の縮小が始まることで、日本のスタートアップエコシステムが衰退する可能性について考察しています。そもそも、近年のイグジット状況から見込まれるリターンの金額は、スタートアップ市場全体の現在の資金調達額を維持するには不十分であると彼は指摘しています。そのため、このままではファンドサイズが徐々に小さくなっていくことが予想されるのです。VCファンドの規模が小さくなれば、スタートアップに投じられる資金量も減ります。大きなプロジェクトに挑戦することや、それにより大きな成果を上げることも難しくなるでしょう。つまり、投資が減ることで、高いリターンを期待できる機会も減り、それがさらに大型投資の抑制につながり、エコシステム全体が縮小均衡の状態に向かう悪循環が生じてしまうのです。
この悪循環を断ち切り、スタートアップエコシステムを維持するためには、大規模で大胆な取り組みが必要だと馬田さんは強調しています。特に今のように、「大きなリターン」よりも「予想しやすいリターン」が重視され、国内市場に特化した小規模で無難なプロジェクトにVCが注目する傾向が続くのは、日本の将来にとって懸念すべきことであると指摘しています。小さなイグジットや控えめの成功を目指した戦略では、日本の経済全体に関わるより大きな課題の解決には貢献できません。また、リスクは高いがリターンも大きい、新たな大規模産業の発展を促進することも難しいでしょう。
このトレンドに歯止めをかけるために、グローバル規模の大きな経済的インパクトが期待できる、より野心的なプロジェクトを支援する戦略への転換を馬田さんは提案しています。より大きなプロジェクトを積極的に支援し、必要なリソースを提供することで、国際競争力のある強力な産業の創出に貢献する。これがひいては日本のスタートアップエコシステムが停滞を避けることにつながると、彼は主張しています。言い換えれば、より大きなファンドが必要なだけでなく、それをより大きなプロジェクトに配分する必要があるということです。短期的にはリスクが高くても、経済的のみならず社会的にも巨大なリターンをもたらす可能性のあるプロジェクトの支援が求められているのです。
馬田さんの指摘や記事の全体的なメッセージに関しては、私も概ね同意します。しかし、全体像をより把握するために、いくつか指摘しておきたい点があります。