今回は、アサインの企業としての強靭さにスポットを当てていく。その鍵を握るのは、社長直轄の経営戦略室だ。
人材業界は現在、ふたつの方向性がある。一方は求人と求職者のマッチングにおいて効率性を追求するサービス。もう一方は一人ひとりの求職者に向き合い、キャリア形成を中長期的にサポートするサービスだ。アサインは後者にベットすることで、「キャリア支援」という新たな支援スタイルを牽引している。
同社はテレビCMをはじめとするブランディングやマーケティング施策とエージェントのサービス品質に対する口コミの相乗効果で、人材業界において大きな存在感を放つようになった。
企業が急成長する過程においては、それに伴う取り組むべきテーマが日々変化し増加していく。企業としての強さが問われる局面も増える一方だ。ではアサインはそうした経営課題に向き合いながら、どのように事業成長をかなえているのだろうか。
今回は社長直轄で会社全体の経営課題にアプローチする経営戦略室にスポットを当てる。登場するのは、経営戦略室で室長を務める篠原桂介(以下、篠原)と、共にトップアジェンダを手がける宗万周平(以下、宗万)の2人のキーパーソンだ。
アサインの急成長を影で支える経営戦略室という存在
「アサインの提供価値の中心は質の高いキャリア支援です。組織規模が200名を超えてもなお、徹底した顧客志向とキャリア支援をかなえるための「発明」に重きを置いています。近年、キャリアを取り巻く環境は大きく変化しており、転職市場は活況を呈しています。とは言え、人材業界自体は新しい業界ではありません。新しいプレイヤーが大切なキャリアを任せてもらうためには、優れたサービス品質が重要であることは言うまでもありませんが、企業としての信頼性も非常に重要になります。
そのためには、求職者と接点をもつエージェントが顧客志向を体現しているだけではなく、経営の意思決定のすべてが顧客志向でなされるべきです。それにより顧客体験が一貫していることで、求職者と強い信頼関係を築くことができると考えています」
そう話すのは東京工業大学卒業後、大手コンサルティング会社でキャリアをスタートし、スタートアップでの新規事業立ち上げも経験するなど華々しいキャリアを歩んできた篠原だ。
「価値の中心」と篠原が表現するエージェントがキャリア支援を実現するために、さまざまな「発明」がアサインでは生まれている。
エージェントの業務は、求職者との面談だけではありません。求職者にひも付いたものだけでも、履歴書や職務経歴書の作成や提案する企業の選定、選考対策や退職交渉のフォローなどがあり、その業務は多岐に渡ります。マッチング要素の強い支援ではないからこそ、一人ひとりに向き合う時間をより多く設けなければなりません。
そのなかで業務効率化をかなえることはもちろんですが、支援の質をより高めるために技術活用を進めています。顧客管理システムでは、過去の支援データやキャリアデータから、求職者に適した企業に受かるための選考対策方法がわかります。また、支援の実績やキャリアの知見が蓄積されているため、キャリアプランシート作成のサポートも受けられます。
生成AIやRPAも積極的に取り入れていますが、重要なことは、単に業務効率化を図ることではなく、支援の質を高め、求職者の目指すキャリアの実現をサポートできるかどうか。それがかなわなければ、我々の存在意義はないと思っています」(篠原)
経営戦略室は市場動向を踏まえて、中期経営計画を達成するために急所となる重要なテーマに取り組んでいる。テーマは、技術戦略だけではなく、マーケティングやブランディングなど幅広い。
また、エージェントと共にプロジェクトを進めていくことも少なくないという。セクションを超えて企業成長に取り組む。そして再び会社が大きく成長する。その繰り返しが現在のアサインをつくり上げていると篠原は言う。
「キャリア支援」を最短で求職者の有効な選択肢にするために
創業メンバーとしてアサインに参画し、事業成長の変遷を見てきた経営戦略室の一人、宗万にアサインのベンチマークについて尋ねると意外な回答が返ってきた。「競合を意識したことはありません。なぜなら『転職支援』はあっても『キャリア支援』という市場自体はなく、新たな市場をつくっていると捉えているからです。これからの時代に求められるキャリア支援を求職者にとって存在感のある選択肢にすることが、この会社に求められている重要なミッションだと捉えています」
既に成熟した市場において、新たなサービスが脚光を浴びることが難しいことは言うまでもない。では、彼らはどのようにキャリア支援を市場のスタンダードに引き上げようとしているのか。
「普通のやり方では、キャリア支援の確立までに数十年かかるでしょう。それを数年に圧縮するためには、経営戦略室として新しいアプローチを試していかなければなりません。
より多くの求職者にキャリア支援を届けることが重要なため、現在は求職者との接点を最大化するようなマーケティング戦略に取り組んでいます。短期的な売り上げや成長を重視するのではなく、長期で求職者と信頼関係を築くことを大切にすべきだと考えています。
短期的な顧客接点の増加に焦点を当てると、従来のメールマーケティングのように画一的なメールを多く送信するというやり方が効率として良いように思えます。ただ実際には、求職者にとって価値のある接点でなければ、長期的にアサインが求職者から選ばれることはありません。だからこそ、求職者一人ひとりにとって必要な情報を届けるために、One to Oneの顧客体験を構築することにリソースを投下しています。
一見、転職相談までの導線が長いと思われるようなマーケティング施策であったとしても、ブランドへの信頼に勝るものはありません。長期目線で求職者との信頼関係を重視し、キャリア形成を支えるための体験の構築に投資するという意思決定ができるからこそ、キャリア支援のトップブランドまでたどり着けると信じています。
新しいアプローチだからこそ、きっと多くの失敗を経験することになります。しかし、『キャリア支援』を最短で求職者の有効な選択肢のひとつにするためには、失敗から学び、挑戦し続けなければいけません」(宗万)
重要なことは、ビジョン実現に全員で向き合うこと
アサインの急速な事業成長は何によってもたらされているのか。事業優位性として宗万が挙げたのは意外にも「ビジョンの浸透度」であった。「アサインは仕組みが強い企業であるということは、紛れもない事実でしょう。オペレーティブな業務は自動化・効率化が進んでいますし、属人化されやすい求職者との面談においても蓄積されたナレッジから、より良い支援方法が形づくられ、それらは常にアップデートされ続けています。しかし、我々の強さは全員がビジョンを理解し、共感していることだと言えます。
中長期のキャリア形成をサポートする『キャリア支援』になるのか、もしくは『転職支援』に留まってしまうのかは、『個性や可能性を発揮するサポートを担う』というビジョンを実現したいと本気で思えているかによって変わります。日々、求職者に向き合うのはエージェントであり、ビジョンを体現するのも彼らであるからこそ、ビジョンの浸透度が非常に重要になります」(宗万)
PwC、Salesforce、東京海上日動、野村證券、富士通、日本航空などさまざまなバックグラウンドをもつメンバーが集まるアサインだが、採用で最も大切にしているのはビジョンへの共感度だそうだ。それほどまでにビジョンを重んじ、その実現のために事業を推進している。
変化し挑戦し続けることでキャリア支援の確立を
最後に、アサインの将来像を聞いてみた。「キャリア支援をすべての人に届けるために、あらゆる挑戦をしていかなくてはなりません。組織規模が大きくなってもなお、求職者一人ひとりに真摯に向き合い続けられるか、キャリアのプロとして採用企業や業務内容、キャリアそのものについて学ぶ努力をし続けられるか。テクノロジーを正しく活用し、エージェントの日々の活動をサポートできるか。我々が提供するキャリア支援の真価が問われています。
あらゆる取り組みにおいて、失敗も成功も経験し求職者の期待に応えていくなかで、キャリア支援を存在感のある選択肢のひとつにできると信じています」(篠原)
アサイン
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篠原桂介(しのはら・けいすけ)◎東京工業大学卒業後、ベイカレントコンサルティング、日本総合研究所にて製薬、金融、Webサービス、製造企業や官公庁に対して営業戦略策定、業務改革支援、新規事業計画策定、マーケティング支援などに従事。その後、Speeeのコンサルティング事業の立ち上げ・推進を経験。アサイン参画後は、経営戦略室長として、エージェント事業におけるマーケティング戦略の策定・実行を担う。また、新規事業として組織人事コンサルティング事業の立ち上げもリード。
宗万周平(そうまん・しゅうへい)◎大学卒業後、不動産会社よりキャリアをスタート。その後、中国への留学を経て、創業メンバーとしてアサインへ参画。エージェントとして2年間活動した後、経営戦略室に異動し、代表管轄の事業上重要性の高いミッションに取り組む。40万人以上のユーザーを有する転職サイト『ASSIGN』の新卒版である『ASSIGN 新卒』の立ち上げをリードし、現在は幹部採用の責任者として活動。