編集長の忘れられない「この一言」
シニアライターとして創刊に関わり、2019年より編集長を務める藤吉雅春が10年分の取材ノートから忘れられない「この一言」を抜粋。リーダーたちの言葉にどんな未来を見たのか。
二回目の今回は、2019年1月号、「日本の起業家ランキング」1位のこの人。
〈創業して2000日目の朝を迎えました。これまで悩んだのは一度だけ。創業の初日です〉
(Forbes JAPAN2019年1月号 「日本の起業家ランキング」1位 アストロスケール 岡田光信)
2024年6月、スペースデブリ(宇宙ごみ)除去を含む、宇宙の軌道上サービスに取り組むアストロスケールホールディングスが、東証グロース市場に上場した。創業したのが2013年(ホールディングスは2018年)だから、11年目の上場である。私が岡田氏と初めて会ったのは、創業して1年がたった2014年6月。丁度、Forbes JAPANを創刊した時であり、創刊2号の表紙に登場してもらった。まだ何の実績もなかったし、「人類初のスペースデブリ除去に挑む起業家」の前に立ちはだかる難題はあまりに巨大すぎて、彼は何をどこから手をつけていくのか、当時は見当もつかなかった。
しかし、その後の10年で、アストロスケールは日本を拠点に、アメリカ、イギリス、イスラエル、フランスに子会社をもつ国際企業になり、岡田氏は北半球の国々を年中まわり、各政府の宇宙政策に関与するようになった。では、これがなぜ画期的か。
スペースデブリを生み出している主な国はアメリカ、ロシア、中国であり、つまり、デブリの危険性や責任を問い出すと、大国間の政治問題となる。これまで各国政府と国際機関が見て見ぬふりをしてきたのは、そうした厄介さがあるからだ。それだけではない。そもそも技術的な問題がある。75万個以上のデブリ(1センチ以上の大きさ)が、銃弾の20倍の速度で地球上を周回している。どうやって除去して宇宙を安全な空間にするのか。誰がカネを出すのか。法的な整備はどうするのか。ビジネスになるのか。