言葉を変え、概念を変える
ところが、本誌が創刊した2014年当時、長年の政策と世間のイメージは乖離したままだった。メディアの責任もあると思うが、「中小企業=大企業より劣る弱者、ベンチャー=怪しい」というイメージを、経営者たちから嘆きや不満として何度も聞かされた。「優秀な人材が集まらない」と。本質的な問題は、「正しく評価されていない」の一点につきる。当時、硬直した経済構造を活性化させなければならない状況にあった。なのに、「無名」「小さい」「若造」「前例がない」という属性を重視し、評価の対象にしない風潮は、正常な社会とは言い難い。日銀の黒田東彦前総裁が言う「ノルム(社会通念)」にも似て、社会に根深く染みついた観念となってしまっていたのだ。
この観念を打ち壊したいという思いに共感する人は多かった。創刊号に登場したソニーの出井伸之元会長、現在のKDDIである第二電電を起ち上げた千本倖生氏らに話を聞きにいくと誰もが起業家精神を推奨し、経営者に必要なアニマルスピリッツを説いた。
では、変化を起こすにはどうしたらよいか。あらゆるプロジェクトは「名前」から始まる。言葉を変えることで、概念は変わる。古い考え方は、言葉を死語として葬ることで新陳代謝が起こる。
当時、日本には馴染みがなかったが、アメリカで言われ始めていた「スタートアップ」を私たちは使うことにした。そして、組織の規模だけをモノサシにして「中小企業」と総称することに違和感を抱き、スモール・ジャイアンツと名づけた価値創出の企業を見出すことにした。また、無名だけれども才能ある若者たちを日本版「30 UNDER 30」という企画にした。
ピーター・ドラッカーの言葉を借りるなら、「変化を利する者こそが企業家」である。ドラッカーがいう「企業家」の定義とは、変化を常に探し、変化に対応し、変化を機会として利用する人たちだ。変化を起こそうとする最たる人々が、この3つの領域のリーダーたちだろう。多くが無名であるが、変化を利する人に有名か無名かといったモノサシを適用することほどバカげたことはない。
変化という不確実性を利する原動力は、アニマルスピリッツと呼ばれる。その真っ只中にいるリーダーたちの気づき、悩み、知恵を言語化する場を提供したい。同時代のリーダーたちの言葉を共有する場として、私たちのプロジェクトは始まった。
一方で、私たちに課せられたミッションは、映画監督の黒澤明の名言がそのまま当てはまるだろう。
〈悪いところは誰でも見つけられる。いいところを見つけるのは、そのための目を磨いていないとできない〉
変化を見いだした人々がどれだけの価値を社会に提供できるだろうか。そしてまた社会全体が目を磨いていくことで、硬直した世界を前に進められたらと思うのだ。