そして、職場には、必ず、色々な形でミスやトラブルを起こす管理職がいる。そうした「リスク体質」の管理職は、共通に、次の問題を抱えている。
1. 精神的スタミナが無く、注意力が持続しない
2. 自分の責任を曖昧にし、組織や周囲に甘える
3. 仕事の責任より、自分の立場を守ろうとする
そして、残念ながら、こうした管理職は、そもそも、自身の問題に気がついておらず、自身が「リスク体質」であることにも気がついていない。
それゆえ、経営者は、企業や職場における、こうした「リスク体質」の管理職を早期に発見し、その体質を早急に改めさせなければならない。
なぜなら、「小さなミス」を頻繁に犯し、平然としている管理職は、それを放置していると、必ず組織にとって「深刻なトラブル」を起こし、ときに、取返しのつかないダメージを与えるからである。その放置は、最悪の場合、冒頭のごとき事例となる。
リスク・マネジメントの要諦は「予防保全」、すなわち、リスクの芽を早めに発見し、顕在化する前に除外することであるが、これは人材にも言える。
この「除外」の意味は、まずは、指導・教育によって「リスク体質」を改めさせることであるが、何度指導しても変わらない人材は、残念ながら、経営における重要な立場には置いておけない。
もとより、経営者にも情はあるが、経営者とは、数多くの社員、無数の顧客と社会に対して責任を負う立場である。されば、社員や組織、顧客や社会に大きな被害を与えかねない「リスク体質」の管理職を放置すべきではない。筆者は、長い経験の中で、情に流された経営者の失敗例も数多く見てきた。
経営であるかぎり、「リスク」は避けられない。
大切なのは「リスク体質」を改めることである。特に、組織の中の「リスク体質」の管理職を発見し、早急に、その体質を改めさせること。
それは、「リスク・マネジメント」の要諦でもある。世界の大事故の原因は、その大半が「ヒューマン・エラー」であることを、忘れるべきではない。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、21世紀アカデメイア学長。多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)専門家会議元メンバー。元内閣官房参与。全国8500名の経営者が集う田坂塾塾長。著書は『人類の未来を語る』『教養を磨く』など100冊余。tasaka@hiroshitasaka.jp