これは、ウイルスに感染した細胞を攻撃して死滅させるキラーT細胞を、ES細胞(胚性幹細胞)から作るというもの。T細胞を体外で増殖して患者に投与する方法は、これまでもあった。もともとはがん治療のためのもので、一部はすでに承認されている。
しかし、現在の方法では患者本人の細胞を培養しなければならず、また患者本人から良質な細胞が必要なだけ採れるとも限らない。そのため大変な時間がかかる。ウイルスに感染した細胞にも有効だとされていたが、ウイルス感染症の治療は一刻を争うため難しかった。
それに対して、京都大学、藤田医科大学、大阪大学、国立成育医療センターからなる研究チームのES細胞を使う方式なら、第三者の細胞が使えるので、大量生産と備蓄が可能で、いつでも誰にでも即座に使える。だからウイルス感染症に有効なのだ。
ES細胞には免疫拒絶反応の心配がつきまとうが、ここで使用するものは遺伝子を変革させ数週間は免疫拒絶反応を抑えられるようにしてある。なので、ウイルス感染症の治療には十分だ。また、ひとつの治療薬で日本人の60パーセントに適用できるという。
これまでのコロナ治療薬のための抗ウイルス薬は、感染初期にしか効果がなく変異株には効かない。重症化した患者には使えず、特効薬と呼べるほど「切れ味」のよいものではないと研究チームは言う。今回開発された方法は、たとえば白血病治療などの造血幹細胞移植後に起きる致死的なウイルス感染症に対しても、有効性と安全性が示されている。つまり、非常に強力ということだ。
まだこれから臨床試験に向けた技術開発が必要になるが、この技術を土台にすれば、SARS、MERS、鳥インフルエンザ、未知のウイリスにも対処できるようになるとのこと。「人類をウイルス感染による死から救うブレイクスルーになればと」と研究チームは期待を寄せている。
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