現在、エヌビディアの株価は約103ドルで、予想利益の約43倍で取引されている。この倍率は高いと思われるかもしれないが、最近のエヌビディアの成長を考えれば不合理な水準ではない。エヌビディアの業績は堅調で、今年度の売上高はほぼ倍増の約1200億ドル(約18兆3353億円)に達し、EPS(1株当たりの純利益)も倍増する勢いだ。しかし、GPUの最終市場や、AIエコシステムの根本的な経済性については大きな疑問が残るのも事実だ。
変化が続く、AIのエコシステム
AIインフラを構築し、大規模な言語モデルをトレーニングすることには、高額な費用がかかる。このことは、企業がAIインフラに対して行っている巨額の投資が最終的にどのように回収されるのかという懸念を抱かせる。ベンチャーキャピタル(VC)のセコイアは最近、AI業界が昨年1年間に高度なAIモデルを訓練するために、約500億ドル(約7兆6396億円)をエヌビディアの半導体に費やしたと推定している。建物や電力など、その他の付随的な投資を考慮すると、AIインフラの構築に必要な総額はこの数字の約2倍、つまり昨年1年間で約1000億ドル(約15兆2782億円)が費やされたと考えていいだろう。しかしセコイアは、これらの投資が生み出した収益はわずか30億ドル(約4583億円)に過ぎないと見積もっている。AI業界はまだ黎明期ではあるが、ChatGPT以外に、それなりに多くの有料顧客を抱えるAIサービスはまだあまり見かけない。例えば、Spotifyやネットフリックスのような音楽や映像のストリーミングサービスでは、顧客は月額10ドル以上を気軽に支払うが、幅広い顧客層に同程度の効用を提供するAIサービスはまだ世に出ていない。実際、The Informationのレポートによると、ChatGPTを提供するOpenAIは2024年に50億ドル(約7630億円)もの損失を出す可能性があるという。これは、同社がこれまでに7回の資金調達ラウンドで集めた累計約110億ドル(約1兆6786億円)の資金に加えて、さらに多くの資金を調達しなければならないことを意味する。
エヌビディアの収益が2026年度には1600億ドル(約24兆4133億円)近くまで成長し、その大部分はAIに特化したGPUからもたらされると市場が予測していることを考えると、最終顧客の収益もそれに連動して成長し、彼らが費やした多額の支出を正当化できるかどうかは未知数である。AIはコンピューティング分野における一世一代のチャンスであるように見えるが、それらの具体的なユースケースや、そうしたサービスに顧客が果たしていくら払おうとするのかが明確になるまでには、まだ時間がかかるだろう。もしエヌビディアの顧客が儲けられなければ、エヌビディアの高い成長率や利益率が維持できるはずもないのだ。