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2024.08.16 11:00

ラストフロンティアを切り拓き 資産運用領域で新たな価値を生み出す

潜在化しているニーズを汲み、常に革新的であれーー。日本の投資家の「投資家主権の確立」に貢献。
ラストフロンティアの資産運用領域だからこそできる、新しい挑戦。
SBIグループ創業25周年。朝倉智也 SBIグローバルアセットマネジメント代表取締役社長が、さらなる飛躍を語る。


ーーSBIグループが発足して25年になりますが、朝倉さんは創業来のグループの発展をどのように捉えていらっしゃいますか?

 私は29 歳のときにソフトバンクに入社したのですが、当時は目の前に北尾さんのデスクがあり、間近で北尾さんの手腕を学ぶ機会を得ました。

 その後ソフトバンクのグループ体制が変わり、各事業部門を子会社として分離独立させることになり、現在のSBIグループも金融部門として独立しました。SBIグループが発足した1999 年当時はインターネットの普及という転換期を迎えていたものの、翌年にはインターネットバブルが崩壊するという状況下で、グループにとっては厳しい船出でした。そんな逆風のなかでしたが、北尾さんはインターネットの将来性と、インターネットと金融との親和性に着目されて、DayOneから企業生態系の構築を掲げ、ベンチャー企業への投資事業と証券事業を祖業として、その後、銀行、生損保等と次々とオンライン金融生態系をつくっていきました。SBIグループにとって最初の10 年は事業規模の拡大フェーズ。そして16 年ほどかけて世界的に見ても極めてユニークな「インターネット金融生態系」が完成しました。

 グループ創業来、私はSBIグループ内のモーニングスターという企業で、投資家への投資教育並びに金融商品の選択をサポートするため、中立・客観的な立場から投資信託の格付などの投資情報を提供してきました。そして今は運用商品の提供を中心に資産運用分野を担っています。SBIグローバルアセットマネジメントはいわば「メーカー」として、お客様へ提供する「運用商品」をつくり、証券会社や銀行がディストリビューターとして販売していく。我々は低コストで良質な運用商品を開発することに力を入れています。こうした取り組みによって、日本政府が掲げている「貯蓄から投資へ」を後押しする一翼を担えているのではないかと思います。

ーーSBIグループはまさに日本の金融の発展を自らつくり出しているということですね。

 そうです。SBIグループの事業構築の基本観のひとつである「顧客中心主義の徹底」は証券取引の手数料を最大限安くする、銀行の住宅ローンの金利もできる限り低くする。預金の金利はできるだけ高くし、生命保険や損害保険の保険料もできるだけ安くするということを徹底してきました。私が任されている資産運用の領域も同じです。

 提供する運用商品のコスト、すなわち投資家が負担するコストをできるだけ抑えることが、いちばん目に見えるかたちでわかりやすい「顧客中心主義」の実践です。

 世の中には「顧客中心主義」や「顧客第一主義」などと言いながら、実態はお客様にとってコスト負担が大きく利便性も劣る商品やサービスを提供している例がたくさんあり、それでは絵に描いた餅です。そうではなく、「顧客中心主義」を有言実行し、きちんと目に見えるかたちでやってきたのがSBIグループです。

ーーSBIグループには新しいものにチャレンジできる土台もあるのでしょうか。

 例えば、SBIグループの事業構築の基本観のひとつに「革新的技術に対する徹底的な信奉」があります。しかし、新しい技術というのは短期的には盛り上がりますが、それを事業として「やり続ける」ことが難しい。今のAIやブロックチェーンの技術は、かつてインターネットがそうであったように、まだまだ信頼性に危ういところがある。しかし、新しい技術というものは必ず中長期的に世の中を大きく変えていきます。むやみに新技術を批判するだけではなく、技術を正しく理解し信奉して、事業に応用することが重要だと思います。そのためにSBIグループでは、さまざまな布石を打ち、技術に対して徹底的に研究もしているのです。

 北尾さんは、前人未到の領域に勇気をもって取り組むことを「自我作古(じがさっこ)」という言葉で表現されますが、頻繁にこうした片言隻句や箴言を発し我々役職員を鼓舞しており、北尾さんの高貴な思想や哲学が我々のバックボーンになっています。SBIグループの経営理念や事業構築の基本観をベースに、北尾さんの考える全体戦略に基づき、私ども役職員が各々の会社や部門において個別戦略を立て、新しいことに対してスピード感をもって進めていく風土がある、それがSBIグループの強みになっていると思います。

ーー朝倉さんは「資産運用は金融業界のラストフロンティア」とおっしゃっていますが、今後どのような展開を目指しているのでしょうか。

 日本は株式の売買委託手数料の自由化で米国に20年、英国に10 年遅れましたが、資産運用はそれ以上に遅れているかもしれません。

 欧米の運用会社が銀行や証券会社の地位と同等であるケースと比べて、日本は長い間、銀行や証券会社が主体で、その下に子会社として運用会社が存在していました。

 北尾さんはもともと金融立国ということを標榜されていて、日本の個人金融資産を預貯金で眠らせずに、金融収益を稼いでいく時代がやってくる、と常々話されていました。日本の個人金融資産は年々増え続け、今や2,100兆円にも膨らんでいますが、その内訳は「現・預金」がいまだに50%超を占めているという状況です。こうした意味で北尾さんが10 年くらい前から「資産運用を強化する」と言いましたのは、グローバルな視点からしても、まさに慧眼です。私がラストフロンティア(最後の未開拓地)と言い続けているのも、金融の世界のなかで、これから市場規模が大きく拡大し、新しい商品やイノベーションをどんどん生み出せる可能性があるのが資産運用の世界だと思うからです。

 すでにSBIグループでは、グローバルなアセットアロケーションの構築に向け、欧州の大手資産運用会社の英マン・グループや世界有数の総合的オルタナティブ資産運用会社の米KKRとの提携も発表しています。日本の投資家にとっては、株式や債券のような伝統的資産クラスだけでなく、ヘッジファンドやプライベートデット、プライベートエクイティのような非伝統的な資産への投資機会は限られていましたが、こうした新たなパートナーとの提携により、そのような資産への投資機会を提供することが可能となります。グループのSBI証券やSBI新生銀行、SBIマネープラザ等や、さまざまな事業領域で提携している地域金融機関を通じて、個人のお客様にも提供していく予定です。

 また、日本での制度が整えば、分散投資の観点からも、暗号資産やST(セキュリティ・トークン)等の次世代の金融商品を運用商品に組み込めるように取り組んでいきたいと思っています。

「北尾さんは新刊が出ると、一言添えてくださるんですよ。特に私はこの言葉が好きです。自我作古(じがさっこ:われよりいにしえをなす)。著作の数々にはSBIのエッセンスが詰まっています」

「北尾さんは新刊が出ると、一言添えてくださるんですよ。特に私はこの言葉が好きです。自我作古(じがさっこ:われよりいにしえをなす)。著作の数々にはSBIのエッセンスが詰まっています」

流れを変える、常識を変えるのがSBIグループ

ーーSBIグローバルアセットマネジメントの強みとは、何でしょうか。

「顧客中心主義」を徹底し、一人ひとりの投資家に最適な商品を提供していることです。そのために、SBIグループのDNAのひとつであるEntrepreneurship(起業家精神を持ち続ける)のもと、迅速な意思決定と行動を心がけ、新しい領域をどんどん攻めていき、既存の概念にとらわれず、創造的精神を発揮し続けるということです。例えば低コストのインデックスファンドのラインナップの拡充を進めるなかで、日本初となるグローバルサウスを投資対象地域とする公募投資信託も設定しました。また、低コストのアクティブファンドをシリーズ化して次々と市場に提供しています。

ーー一般的な投資の教科書とは違うわけですね。

 通常、アクティブファンドはファンドマネージャーやアナリスト等がファンドを管理運営するので多くのコストがかかります。ところが我々はアクティブでもコストが低いものを世に出せるのではないかとチャレンジしたのです。

 投資家にとって望ましいのは、やはり運用する際に負担するコストが低いこと。インデックスかアクティブかではなく、コストが高いか低いか。我々は、アクティブファンドでもコストが低い商品を開発することができました。一般に低コストであるインデックスファンドを含めた投資対象とするファンドのなかでも最も低いコストのアクティブファンドを実現し、投資家の皆さんには「さすがSBIだ」と受け止めていただいているのではないかと思います。

ーーまさにイノベーティブな商品開発によって、顧客中心主義を実現する。理念と基本観の良い循環がなせることですね。

 我々がやっていることは、いわゆる顧客のニーズをつかみ取ることです。アンケート調査などで「こういう商品が欲しい」と言われても、それが本当に正しいかどうかはわかりません。すでに顕在化しているニーズではなく、潜在的なニーズをつかみ、お客様に認められる商品をつくっていくことが使命だと思っています。ハードルの高い課題でも、それをいかにスピード感を持って取り組めるかにかかっているのです。

ーー運用資産残高の目標に対する進捗はいかがですか。

 運用資産残高を24 年度中に10 兆円、2027 年度中に20 兆円という目標を掲げておりましたが、すでに予定より早く10 兆円を突破しました。残高が積み上げられているのは、お客様のニーズに合う運用商品を提供できていることの証左だと思います。SBI 証券では新しいNISAのもと投資をされる方が大幅に増えています。若い方が投資を始めるなど、「貯蓄から投資へ」の流れに変わってきています。株価も34 年ぶりの高値です。こうした時代の流れを読みながら、これからも我々がお客様に認められる商品をつくっていけば、自然と目標は達成できると思っています。

 こういうイギリスの風刺詩があります。

 自然から、自分の手で生計を立てる者がいる。それを「労働」と呼ぶ。自然から、自分の手で生計を立てる者から、生計を立てる者がいる。それを「商売」と呼ぶ。自然から、自分の手で生計を立てる者から生計を立てる者から、生計を立てる者がいる。それを「金融」と呼ぶーー

 つまり「金融業」を行う会社は、人々の「労働」と「商売」から生み出された資金を高い倫理観のもとで管理運営していくことが極めて重要です。SBIグループの5つの経営理念の最初にある「正しい倫理的価値観を持つ」です。これからも個人の金融資産、そして企業の資産運用に貢献できる取り組みを進めていき、この領域で北尾さんの思想・哲学である「世のため人のため」のビジネスを具現化していきたいと思います。

※2024年4月取材



あさくら・ともや◎1966年生まれ。慶應義塾大学文学部卒。北海道拓殖銀行、米国メリルリンチ証券を経て、米国イリノイ大学大学院経営学修士号(MBA)取得。2004年からSBIグローバルアセットマネジメント(旧モーニングスター) 代表取締役社長。SBIホールディングス株式会社の取締役副社長としてSBIグループ全体の資産運用事業を統括する。

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