グループ挙げて取り組む地方創生における地域金融機関との連携でも同業の銀行である意味があるーー。
SBIグループ25周年を迎え、川島克哉 SBI新生銀行代表取締役社長が、これからを語る。
ーーSBIグループ創業25年を振り返ってみていかがでしょうか。
私自身、SBIグループの創業当時に25年後のグループの姿が現在のようになるとは想像できていませんでしたが、おそらく北尾さんは創業時から遠大な構想を描かれていたのだと思います。その構想のなかで一つずつパーツをつくって、育て、競争力を持たせて、今の企業生態系を構築してきた、そのなかで私たちはそれぞれのパーツである事業を任されてここまで歩んできました。
この四半世紀のなかでSBI 新生銀行がSBIグループ入りしたのは2年半前、2021年12月です。SBI新生銀行グループの多様な顧客網、取引先、さまざまな金融ノウハウやエクスパティーズに、ビジネスチャンスがさらに拡がる潜在力を感じています。SBIグループの中核的銀行として果たせる役割は大きいと思いますし、SBIグループ内でのシナジーをいっそう追求していきたいと思っています。私はSBIグループの証券やネット銀行、投資事業に携わってきましたので、そうした経験を今の仕事に活かし、SBI 新生銀行で新しいビジネスを興していく、そういう使命を今は感じています。私にとっては常に今がいちばん面白いという思いの連続で、あっという間の25 年でした。
ーーSBIグループが進める地方銀行との連携でも、SBI新生銀行が果たせる役割は大きいのでしょうか。
SBIグループの事業構築の基本観のひとつに「公益は私益に繋がる」があります。地方創生に私たちが銀行としてどのようなお手伝いをできるか。あるいは地元の企業や産業にどう貢献できるかを考え、実践していくという視点を常に持つようにしています。
SBIグループが持つ金融テクノロジーやネットワークは、地方銀行が単独では十分ではない部分もあろうかと思います。そこで同じ銀行業を含む我々が地方銀行のプラットフォーマーとなり、それらを広く提供し、活用していただくことで、地方銀行の企業価値向上ひいては地方創生につなげていただけるのではないかと考えています。
現在、SBIグループでは9つの地方銀行と資本業務提携等を締結していますが、グループが進める地方銀行とのトライアングル戦略は、もはや出資の有無とは関係のないフェーズになってきていて、地方銀行からの要請や期待に対し、協力できることは何でもお手伝いし広範な連携へと拡大していきたいと考えています。
例えばプロジェクトファイナンスやストラクチャードファイナンスに関するノウハウは、我々には一日の長があると思いますので、黒子としてサポートできる面があります。太陽光発電など、地方発の大きなプロジェクトが立ち上がるとき、地銀単独では手がけることが難しいようなケースでも、我々が陰に陽にプロジェクトのお手伝いをするということもできます。
さまざまな分野において、我々のみならずSBIグループが一丸となって、いかに地域に貢献することができるかアイデアを出し合うことで、これまで以上に地域の活性化、地方創生に貢献できるだろうと考えています。
ーーあらためてSBIグループの強みはどういうところにあると思いますか。
SBIグループの祖業のひとつはベンチャーキャピタルということもあり、フィンテックという言葉がまだあまり一般的でなかった2015年には業界に先駆けて「Fintechファンド」を立ち上げるなど、いち早くこの分野の有望なベンチャー企業に対する投資を開始しました。そしてその投資をきっかけに、ベンチャー企業の有する技術をグループ内に導入し、それを技術拡散させていくという基本戦略を描いて取り組んできました。
当時SBIインベストメントの社長であった私は、ファンドへのご出資をお願いするため、地方銀行の頭取や役員の方々にお会いする機会がよくありましたが、最初は話がなかなか進まないことも少なからずありました。しかし、フィンテックが社会的な潮流となり、さまざまなサービスを開発するベンチャー企業が増えることで、SBIグループが行っている取り組みに関心を示してくださる地方銀行が次第に増えていきました。
いわゆるフィンテック分野やAI・ブロックチェーンといった先端領域において、地方銀行ではソリューションやノウハウが十分でないことがあります。しかし地方銀行自身も時代のニーズに対応して変化していかなければいけない。我々は先んじてそういう分野に投資・導入・拡散の基本戦略で積極的に取り組んでいましたし、ファンドにご出資いただく地方銀行などの投資家と、我々のファンド出資先のベンチャー企業との懸け橋となれるような取り組みも推進していました。こうしてSBIグループとの地方銀行とのご縁が広がっていきました。
SBIグループは、単なるお金儲けではなく、「公益は私益に繋がる」という考えのもと、すべての事業にがむしゃらに取り組んできました。最初は地方銀行のなかにはSBIグループに警戒心を抱かれている方もいらっしゃったかもしれませんが、我々には一切邪(よこしま)な思いというのはありませんので、時間をかけて確実に信頼関係を築いていった結果が、現在につながっていると思います。日々の変化は小さいかもしれませんが、時間の経過とともに大きな変化になることが多分にあります。地方銀行は目先の収益を我慢してでも「地域のため、地方のために」という思いが強く、人間的にも素晴らしい方が多い。今後SBIグループとの関係性はさらに良くなることはあっても悪くなることはないのではないでしょうか。
ベンチャースピリットなくして「世のため人のため」となる事業を興していくことはできない
ーー川島さんは野村證券時代から北尾代表の薫陶を受けていたそうですね。私が北尾さんに初めてお会いしたのは26 歳くらいのときですから、かれこれ30 年以上になります。第一印象は、典型的な野村證券の社員とはまったく違うタイプの人だなと思いました。北尾さんご自身、海外勤務も長かったからか、当時の野村證券が常識と思っていることに対して、平然と「非常識」と物申せる人でした。野村證券のなかにもこういう人がいるのだなと、当時はすごく驚きました。
北尾さんは当時から常に「こんなセールスをして本当にお客さんのためになるの?」と仰っていました。会社の方針に反対して、他部署とぶつかることもあったと聞いています。常に、お客様の立場で物を考えておられる方でした。そしてそれを最後まで貫き通す人ですから、この人についていきたい、と自然と思っていました。
ーーグループがこれだけ成長した要因を、あえてひとつ挙げるとすれば何でしょうか。
やはりベンチャースピリットではないかと思います。新しいことに対して、組織の枠や役職を超えてみんなでガツガツと取り組んでいくこと。これはSBIの社風であり、DNAだと思います。
一方、銀行はさまざまな規制やルールのなかで決められた事業を正しい進め方できちんとやることが大事です。そのため、新しいものに飛びついたり、今までのやり方を変えたりすることには大きな抵抗感が生じることもあります。
SBIグループは「世のため人のため」になることや、新しいものを事業化すべく一生懸命チャレンジし続けていく、といった熱意を役職員が共有し合うことを大切にしてきた組織です。一般論として、ベンチャー企業から出発しても、だんだん官僚主義がはびこると、意思決定のスピードが遅くなる。さらに我々は潰れない会社にいる人間なのだと思い、徐々に油断が生じる。人間として、会社として傲慢になりがちになる。
だからこそ、北尾さん自ら、このグループはどれだけ成長しようと、ベンチャースピリット、アントレプレナースピリットを持ち続けていかなくてはいけないと警鐘を鳴らし続けておられるのだと思います。
ーーSBI新生銀行自身が過渡期のなかで、新たな取り組みも始まっているのでしょうか。
SBIグループはオンライン金融でさまざまな金融サービスの価格破壊を成し遂げて成長してきましたが、グループのなかには対面のチャネルもあり、従来からネットの強みも生かしつつ「ネットとリアルの融合」を掲げてきました。対面のチャネルはSBIマネープラザがその機能を担っているのですが、現在はSBI新生銀行とSBIマネープラザが共同店舗(※1)を展開していて、従来の銀行店舗では提供できなかった、国内外の株式・債券や不動産小口化商品など、SBIグループの豊富な取扱商品を共同店舗にて一元的に提供し、お客様の幅広いニーズにお応えできるようにしています。
SBI新生銀行とSBIマネープラザの共同店舗では2022 年8月の1 号店の開業後1 年でお客様からの預かり資産残高が1,000億円を突破し(※2)、さらに加速してわずか7カ月という短期間でさらに1,000億円増え、2024年3月には2,000億円を突破しました。2024年度末までにSBI 新生銀行の出張所を除く全支店に共同店舗を併設していくことを決めています。
ーーSBI新生銀行の役職員にはどのようなことを伝えておられるのでしょうか。
まず、お客様のほうを向いて、お客様中心で考えるということ。これはSBIグループ自身がこれまでの成長の要因が「顧客中心主義の徹底」にあることを実証してきていますから、SBI 新生銀行においても、そのことをまずは伝えています。
そして目の前の仕事に一心不乱にそして正しい倫理観を持って誠実に取り組むということ。銀行というビジネスは公共性の高い事業で、グループのなかで間接金融を担う大切なビークルです。ストラクチャードファイナンスやプロジェクトファイナンスなど高度な金融テクノロジーを有する専門性の高い人材も多いので、目の前の仕事に取り組むだけでなく、もっと他の部門、他のグループ会社との連携を強めていこう、ということも伝えています。そこから得られる知識やノウハウもまた、必ず次に生かせます。私が社長に就任した当時からは、かなり部門間の壁は低くなってきたように思いますし、「みんなでやろうや」という風土ができつつある感触もあります。それぞれの部門やグループ会社の良い点や悪い点を知る人が増えることに期待していますし、そうした観点が会社をより良い組織にしてくれるでしょうし、人材の生態系もできれば良いと思います。
2024年4月取材
※1)2024年6月6日に新生ウェルスマネジメントに名称変更
※2)取材当時。2024年7月末時点で預かり資産残高は3,000億円を突破
かわしま・かつや◎1963年島根県生まれ。1985年山口大学経済学部卒業後、野村證券入社。ソフトバンク(現ソフトバンクグループ)へ転職、モーニングスター(現SBIグローバルアセットマネジメント)社長、イー・トレード証券(現SBI証券)取締役執行役員副社長、住信SBIネット銀行社長、SBIマネープラザ社長、SBIキャピタルマネジメント社長、SBIインベストメント社長などを経て、2022年2月よりSBI新生銀行代表取締役社長。