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2024.08.16 11:00

すべては顧客のために 「ゼロ革命」は終わらない

日本最大級の証券会社として存在感を放つ。揺るがない自信は「顧客中心主義」という信念があるからこそ。投資への関心が高まる今、誠実にお客様に向き合う。
SBIグループ25周年を迎え、SBI証券 髙村正人代表取締役社長が語る。


ーー今や口座数などで日本最大の証券会社となったSBI 証券ですが、なぜここまでの存在感を持つに至ったと思いますか。

 一言で言えば「顧客中心主義の徹底」を貫き通したからです。

 SBIグループにとっての顧客中心主義の徹底の実践例のひとつが、インターネットによる手数料の価格破壊です。インターネット証券が黎明期だった2000 年から01年にかけて、SBI証券の前身であるイー・トレード証券は業界で4 番手くらいでした。各社、同じ手数料、ほぼ同じ商品ラインナップで、あまり差別化が図れていなかったのです。

 この状況をどう打破するか。我々が選んだ戦略は、手数料を業界他社よりも圧倒的に安くすることでした。

 当時は「そんな安い手数料で大丈夫か」という声もありました。しかし、戦略が功を奏し、手数料が非常に安いというブランディングができて、2004年3月期以降はオンライン証券会社のなかで口座数や預かり資産などで業界ナンバーワンとなり、2005年3月期第4四半期以降には個人株式委託売買代金は対面証券を含めた全証券会社で日本一となりました。

 顧客基盤が拡大することで改善や追加すべきサービスを拾い上げ、さらに良質なものへと転換していき、それによってさらに顧客が増えていく――こうした理想的な循環が構築できたわけです。北尾さんが描く戦略のベースにあるヘーゲルの「量質転化の法則」を具現化した一例です。

ーーSBI証券での手数料革命はどのように進化し続けていったのでしょうか。

 新たな構想を発表した2019 年当時は「ネオ証券化」と言っていたのですが、「ゼロ革命」は大きな挑戦でした。当時米国で起きた株式手数料の無料化が日本で起きないはずがない。それを見越して、「黒船」が来ようと来まいと、私たちはお客様にとっていちばん良い選択肢を提示しようと先陣を切ったのです。

「いずれ手数料の無料化に踏み切る」と「ネオ証券化」構想を打ち出したのが2019年6月のSBIホールディングスの株主総会のタイミングでした。その後、さまざまな準備の目途が立ち、具体的に「2023 年上期中にやります」と宣言しました。そして、2023年9月30日発注分から、ついにオンラインの国内株式の売買手数料を無料にしました。

最大公約数を常に追求 お客様の多様化する嗜好に合わせてUI、UXも常に改善


ーー「ゼロ革命」から半年も経過しない2024年2月5日には国内初の証券総合口座1,200万を達成(※)しました。さらには昨年9月から、わずか4カ月で100万口座増えたことも特筆すべき成果です。

 ゼロ革命の影響は大きいです。しかし、これに加えて、他社とのアライアンスをどんどん進めたことも、口座数が増えたことに寄与しています。現在、さまざまなポイント制度がお客様の生活のなかに根付いています。より使いやすく、ということでさまざまなポイントの合従連衡の流れが進んでいますが、SBI証券でもさまざまなポイントと連携できるようにしています。

 こうした取り組みを進めるのは、「顧客中心主義の徹底」が原点にあるからです。我々は最大公約数を常に追求します。「ゼロ革命」を成し遂げただけでお客様のためになるかといえば、そう単純な話ではありません。

 お客様にとって、最適な取引環境やサービスを常に提供していきます。ただ、私自身は「お客様に提供していく」というのはおこがましいように思っていて、デイリーでお客様からの声を拾って、常に耳を傾けていく、とにかくお客様と向き合うということを徹底しています。

ーー新NISA制度が始まり、人々の投資に対する関心が高まっています。

 これまでに証券というものになじみのなかった顧客層と強いつながりを維持するために、どんなところに注力していますか。

 私たちはインターネット証券の開拓者であると自負していますから、ユーザー個人にとっていかに使いやすいかにこだわり続けたい。そのためには、UI(ユーザー・インターフェース)、UX(ユーザー・エクスペリエンス)といった使い勝手については、日々改善に改善を重ねています。

 私のところには、毎日100 件を超えるお客様からの声が届いています。目を通しているとよくわかるのですが、とにかくサービス画面の色みから構成まで、実にさまざまな点についてご意見をいただきます。同じ意見が複数ある問題点については、優先度を高くして改善するよう私から指示を出しています。ネットサービスにおいては特に、ユーザーに対してフラストレーションを与えてはいけないと思っており、常にスピード感を持って対応するようにしています。

ーー2024年のオリコン顧客満足度ランキングでは、ネット証券部門でSBI証券が15度目の総合1位となりました。

 顧客から「手数料もかかることなく利用でき、安価にわかりやすく取引をすることができる」と評価する声が上がっています。

 総合1 位はお客様の評価そのものであり、お客様には大変感謝しています。顧客満足度の調査ですので、その内容には真摯に耳を傾けています。しかし、総合1 位となることだけが目標ではありません。マイナスの評価があれば最優先で対応しています。

 また、なかには「金融取引に関するリテラシーが向上した」という60代の方からの声もありました。YouTubeをはじめとした、さまざまなチャンネルを通じて金融教育への取り組みもしていますし、コロナ禍ではなかなか開催できなかった対面によるセミナーも順次開催しています。昨年は3,000 人の来場者を記録したイベントもあり、会場では、SBI 証券のサービス画面の操作方法の確認といったところまで、私たちにできることは何でもフォローをさせていただきました。

 私はSBI 証券のトップですから、こうした顧客満足度を気にするのは当然ですが、北尾さんもまたこうした評価をとても気にしています。「顧客中心主義の徹底」を体現することへの大きな責任を感じています。

この『「価値創造」の経営』は1997年刊。北尾代表の最初の著作。他社のエコシステムとのアライアンス強化についても、すでにこの時点で「提携戦略は必勝戦略」と書いてある。

この『「価値創造」の経営』は1997年刊。北尾代表の最初の著作。他社のエコシステムとのアライアンス強化についても、すでにこの時点で「提携戦略は必勝戦略」と書いてある。

企業生態系という組織優位性によるシナジー効果をさらに発揮していく

ーー北尾代表とはどれくらいのご縁になるんでしょうか。

 まさに25 年以上になりますね。私が三和銀行にいた時代に、ソフトバンクファイナンスの担当になり、そこで出会ったのが最初です。周囲の評価を聞くにつけ「どれだけ怖い人なんだろうか」と思いながらお会いしましたが、意に反してとても優しい方で。そして大変緻密で気遣いにあふれた人、という印象を受けました。その後、銀行を辞めることになったのですが、せっかく働くなら、自分のなかでは予定調和な仕事より面白そうな会社で、かつ熱量が高いところが面白いんじゃないかと思い、ご縁があってSBIグループに移ることにしました。

ーー髙村さんが05年にイー・トレード証券に入社された際、社長だったのが井土(いづち)太良さん。

 2014年4月に逝去され、ちょうど10年が経ちました。先見の明がある方で、ネットとリアルの融合といったものが必要とされる時代が来ることを見越していました。2009 年には金融商品仲介業を中心に証券業務を展開していた日本インベスターズ証券から一部の事業を譲り受けたのですが、踏み切ったのは井土さんでした。当時SBI 証券として金融商品仲介業者(IFA)の活用を積極的に推進していまして、私自身もIFA部門にアサインされ試行錯誤しながら取り組みました。

 また、北尾さんと井土さんの間には素晴らしい関係性があり、証券分野でのさまざまな戦略もまさに阿吽(あうん)の呼吸で進めておられました。証券分野でのさまざまなシナジーを徹底追求するなかでSBIマネープラザという直営のリアルチャネル展開戦略も展開し、今日のウェルスマネジメント強化のきっかけにもなっています。

ーー「ゼロ革命」もまたグループの生態系にシナジー効果をもたらすのでしょうか?

「ゼロ革命」以後、我々を経由してグループ内のほかの金融サービスを利用されるお客様が加速度的に増加しています。グループのいろいろなところでユーザーの基盤が拡大しており、やはり「ゼロ革命」の効果は大きかったと思います。これからも企業生態系としての強みを発揮できるよう、さまざまな検討を進めています。

ーー今後も新たな戦略を打ち出していかれるのでしょうか。

 もちろんです。ゼロ革命はリテール分野ですが、法人の分野では、IPOやファイナンス、M&Aなどビジネスチャンスが大きく広がっています。我々がまだ取り切れていない分野でビジネスを広げ、新たな収益源も育てていきます。香港、シンガポール、最近ではロンドンでも拠点が立ち上がり、海外拠点も一通りの整備ができました。

 我々が「手数料の無料化で失った収益を取り戻しました。一段落しました」で終わることはありません。「この手数料をゼロにしたら、次はこちらの手数料もゼロに」ということになるでしょう。そのために、PTSの活用など新たなコストコントロールの方法も模索を続けています。我々はさまざまな戦略をシミュレーションしています。“Winner takes all”で、一強になることが当面の目標です。すべてはお客様のためです。ゼロ革命に終わりはありません。

※2024年4月取材当時。7月16日に1,300万口座を突破



たかむら・まさと◎1969年生まれ、静岡県出身。1992 年、慶應義塾大学法学部を卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。2005年、イー・トレード証券(現SBI証券)に入社。2007年、SBIイー・トレード証券(現SBI証券)取締役執行役員。2012年、SBI証券常務取締役。2013年、SBI証券代表取締役社長。SBIホールディングス代表取締役副社長でもある。SBIネオトレード証券取締役会長、SBIファイナンシャルサービシーズ代表取締役社長などSBIグループの数々の要職も兼務。

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