スタジアムを飛び出しての「街なか開会式」は夏季五輪史上初。開催直前に仏高速鉄道TGVへの破壊行為が発生して影響が懸念されたが、予定通り選手団が船で入場パレードし、4時間にわたって息つく暇もないほど繰り広げられたユニークで華やかな演出が人々を魅了した。
パリ2024は、過去カヌー競技で金メダルを3度獲得しているオリンピアンのトニー・エスタンゲ組織委員会会長を中心に、広く開かれた「新しい時代のオリンピック」を目指し、インクルーシブかつサステナブルな大会をコンセプトに掲げて計画準備が進められてきた。
その最大の象徴ともいえる開会式について、元JOC(日本オリンピック委員会)参事で現在もオリンピックの理念を説き続ける、五輪アナリストの春日良一氏に訊いた。
2024年7月26日午後7時30分(日本時間27日午前2時半)から始まったパリ五輪開会式はまさに革新的であった。
数年前、開会式がセーヌ川で行われると発表された時、それは大きな希望を抱かせた。これまで一度もスタジアムの外へ出たことがなかった夏季オリンピックの開会式が、フランスの「母なる川」で開かれるというのだ。
コロナ禍のため無観客で開催された東京五輪2020も北京冬季五輪2022でも果たす事のできなかった何かがある。鬱積した思いを吹き飛ばすような何か、革新的な何かを疲弊した世界は求めていた。
五輪史上初のスタジアムを抜け出た会場は「オープンワイド」に観客を迎え入れた。セーヌ川に集まった観客32万人の多くは対価を払うことなく街中の式典を鑑賞する。建物から見ている人たちもいる。そして、セーヌ川上でリアルに繰り広げられるパフォーマンスと用意された映像が織りなす絵巻物は会場を盛り上げる。
絵巻物には一本「筋」が通っていた。聖火である。
「冒険する聖火」は4月にギリシアはオリンピアで採火され、5月に船でマルセイユに着き、フランス各地やタヒチなどを回って、開会式に現れた。
開会式は、聖火を間違えてスタジアムに運んでしまった人の映像から始まった。それをサッカーの英雄ジダンが受け取り、子どもたちから謎の仮面の騎士に受け継がれ、真の聖火台までの旅を続ける。