パリ五輪、雨のセーヌで愛と芸術の開会式 五輪アナリストが分析


しかし私がこの開会式に見た最も貴重なメッセージは「愛」である。エスタンゲ組織委会長もスピーチで語っていたが、この大会が伝えたいメッセージは「パリが世界中を愛しオリンピックを愛している」ことではないか。

「選手の皆さんに感謝します。オリンピックにすべての問題を解決する力がないとしても、たとえ世界中の差別や戦争がなくならないとしても、今夜、人類が一つになることがどれだけ美しいかということを再認識させてくれました」との彼の言葉は、オリンピック休戦期間でも武器を置かない人々にも向けられているのではないか。プーチンもゼレンスキーもしっかりと開会式を見つめてほしい。
パリ五輪・パラリンピック組織委員会会長のトニー・エスタンゲ氏|Photo by Jamie Squire/Getty Images

パリ五輪・パラリンピック組織委員会会長のトニー・エスタンゲ氏|Photo by Jamie Squire/Getty Images


降りしきる雨の中、聖火は一度も消えなかった。

物語に流れる一本の筋「聖火」には秘められた意思がある。それは古代オリンピアから受け継がれたものだ。「武器を置いてオリンピアに集まれ!」と4年に1度、オリンピア祭の知らせを使者たちが都市国家に告げて回った。その時使者たちが掲げたオリーブの樹が今や聖火となっている。

その火は今パリで金メダリストの男女2人が聖火台に点火して燃え上がった。そして驚くことにその聖火台は空に浮かんだ。聖火台は気球だった。気球であれば広く世界を照らすことができるだろう。

エッフェル塔に現れたセリーヌ・ディオンが歌った「愛の讃歌」で幕を閉じたパリオリンピックの開会式は、分断されつつある世界に一つになろうと呼びかけた。フランスの歴史と文化と現代をオリンピズムの筆でセーヌ川というキャンバスに見事に描き出したと言える。
エッフェル塔でディオールのオートクチュールに身を包み、「愛の讃歌」を熱唱したセリーヌ・ディオンさん|Screengrab by IOC via Getty Images

エッフェル塔でディオールのオートクチュールに身を包み、「愛の讃歌」を熱唱したセリーヌ・ディオンさん|Screengrab by IOC via Getty Images



春⽇良⼀◎五輪アナリスト、スポーツコンサルタント。長野県出身。上智大学哲学科卒。1978年に日本体育協会に入る。89年に新生JOCに移り、IOC渉外担当に。90年長野五輪招致委員会に出向、招致活動に関わる。長野五輪を招致した男の異名持つ。JOC在籍中、バルセロナ五輪など日本代表選手団本部員を通算5大会経験。オリンピック運動に共鳴し国際担当として活躍。95年にJOCを退職。スポーツコンサルティング会社を設立し、代表に。98年から五輪批評「スポーツ思考」(メルマガ)主筆。

文=春日良一 編集=宇藤智子

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