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2024.07.29 10:30

歩みが遅い「産業の脱炭素化」はスタートアップのチャンスの場になる

・ビジネスモデルの難しさ

鉄鋼、セメント、化学産業などの多量排出事業者は、コモディティ商品を生産している。脱炭素技術を使用して作られた製品は一般的に標準的な製品よりも高価だ。そのため、脱炭素技術を使って生産されたグリーンスチールやセメントなどがさらに普及するには、短期的には政策や顧客の意欲に支えられたグリーンプレミアム、そして中長期的には技術の革新やスケールアップによる価格競争力が必要だ。

上記の理由から、脱炭素化の技術的な課題が克服されたとしても、研究開発からパイロットプロジェクト、実証プロジェクトを経て、大規模な商業展開に至るまでの資金調達の達成は困難な状況にあった。

スタートアップに吹く追い風

しかしながら、産業の脱炭素化に取り組むスタートアップには、新たな機会を創出するポジティブな動きや傾向が見られるようになっている。

・政策やインセンティブ

世界中の多くの国々がネットゼロ目標を掲げ、産業の脱炭素化を後押しする政策や規制を導入している。

例えば、EUにおける温室効果ガスの排出を削減するためのインセンティブとしての炭素価格設定、産業プロセスにおけるエネルギー効率の向上、産業プロセスでの低炭素エネルギー源への移行を支援する電化と燃料転換、そして国内外の生産者に同じ炭素制約を課する炭素国境調整メカニズム(CBAM)などが挙げられる。

また、米国ではインフレ削減法の一環として、米エネルギー省(DOE)が化学、セメント、鉄鋼、アルミニウム、食品・飲料、ガラスなどの分野で、重工業の脱炭素化を支援するために33のプロジェクトに60億ドルを投じることを発表している。

・資金調達オプションの多様化

産業の脱炭素化スタートアップは、従来のVCに加えて政府やカタリティックキャピタル、戦略的投資家などからも資金を調達している。米エネルギー省(DOE)やローンプログラムオフィス(LPO)、欧州投資銀行(EIB)などの政府や政府関連機関は、産業の脱炭素化プロジェクトに対して助成金、エクイティ、融資、融資保証を提供することができる。

Breakthrough Energy Catalystのようなカタリティックキャピタルは、大規模な実証プロジェクトに対してもインパクトを生み出すために譲歩的な条件で資金を提供している。最近の事例ではBreakthrough Energy CatalystはRondo Energyに助成金を提供し、同社はヨーロッパで3つの熱エネルギー貯蔵システムの展開の支援を発表した。戦略的投資家も、資金提供と脱炭素化スタートアップが開発したソリューションの顧客となることで、次項のように重要な役割を果たすことができる。

・供給契約による需要の実証

多くの企業が脱炭素化への取り組みを示すために自社のネットゼロ目標やコミットメントを設定し、サプライチェーンの脱炭素化のソリューションを探している。その結果、一部の企業は、グリーンプレミアムがともなうにも関わらず、脱炭素化技術の重要な(将来の)購入者となっている。
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文=マイケル松村 編集=安井克至

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