彼の主義主張もさることながら、選挙に向き合う純粋で真摯な姿勢に大いに惹かれた。お金もコネも支援団体もない。あるのは信条とマニフェスト、それに若い仲間たちだけである。思わず、高校時代の生徒会長選挙を思い出した。これこそが選挙の原点ではないのか、と。
都知事選は、企業の株主総会のピークと重なった。政治も企業も共に最重要なポイントがガバナンスである。特に重大な意思決定を行う議員と役員の選任が要諦だ。何社かの株主総会に出席しながら、選挙との共通点に思いを致した。
企業ガバナンスのキモといえるのが取締役の選任である。最近とみに重視されている点は、女性比率の向上など人材多様性の確保と社外取締役比率のアップ、それに取締役適性を判断するためのスキル・マトリクスである。女性比率については3割を、社外取締役比率は過半数を目指せといわれ、スキルに関しては経営、会計、法務、国際性、技術力、サステナビリティ等々への知見が要求されている。
これを選挙に当てはめたらどうなるか。議員の3割は女性に、という考え方は当然だ。「社外」取締役比率を議員に置き換えると、選挙区外の出身者の割合ということか。過半数はともかく、すでにそうした候補者が少なくない。ただし、彼らの多くが政治過程のガバナンス・チェックを目標にしているとは思えない点が気になるが。
いちばん欲しいのがスキル・マトリクスである。ステークホルダーが膨大な数に上る議員には、企業の取締役以上に厳しいスキル・マトリクスが求められるはずだ。都知事選の選挙ポスター掲示を巡る、ばかばかしいまでに低レベルの行動を見せつけられると、ますますその思いが強くなる。経済、社会問題と行政への見識、組織運営の知見、リーガルマインドの水準、何らかの専門性、持続可能性への深い理解等々、市民の代表としての資質能力こそきっちり評価すべきではないか。