重要な局面では特にファンとのコミュニケーションを大切にする彼らは、Xで「解散ライブをどこで見たいか」と呼びかけた。そして同年9月の「THE HOPE」のステージで、東京ドームを会場に決めたことを発表。24年2月9日にはラストアルバム『BAD HOP』を配信リリースし、同日に「ミュージックステーション」(テレビ朝日系)にも出演。お茶の間からの注目も集まったタイミングで収録曲のMVを毎日公開し、YouTubeの急上昇ランキングを占領した。本作では、新人から大御所まで数々のコラボレーションも実現し、それによって幅広いファンを巻き込み、解散に向けた“お祭り状態”をつくることに成功したのだ。
こうしてキャリアを振り返ると、ラッパー時代からYZERRはアントレプレナー気質を発揮していたことがわかる。「アーティストがビジネスに疎いという思い込みがあるのは、日本だけだと思います。ジェイ・Z、ドクター・ドレー、パフ・ダディといった海外の素晴らしいラッパーは、みんなビジネスを理解しています」と語った。
「僕のなかでビジネスはアートと同じで、きれいであればあるほど、美しくて良いものなんです。ビジネスモデルのアイデアやそれを実現させるためのスキル、テクノロジーなどを感性、つまり“センス”をもって、均整のとれたデザインにまとめ上げることで素晴らしいビジネスがつくれると思っています」
巨大ヒップホップメディアを設立
YZERRは現在、自ら立ち上げた2つの会社を経営し、それぞれ事業のローンチに向けて動いている。今秋に公開予定の国内唯一の総合ヒップホップメディア「FORCE MAGAZINE (TM) 」と、2年前から開発を続けているブロックチェーンゲームだ。まずメディア設立の経緯を聞くと「日本にはヒップホップを専門に扱う巨大メディアが存在しない」と、指摘した。そこで国内外のヒップホップニュースを日本語で閲覧できるウェブメディアを用意し、リスナーのリテラシーをもう一段階向上させようという狙いだ。さらに、トップアーティストのプライベートを覗ける動画コンテンツやオーディションを通した新人アーティストの発掘機能も充実させ、外部から多種多様なユーザー層の流入を促す。
最大の特徴は、あらゆるヒップホップコンテンツが網羅されている点にある。米国では反対に、ヒップホップに特化した専門誌やラジオ局、新世代のラッパーを紹介するネットメディアなどメディアが細分化している。しかし、それが可能なのは米国におけるヒップホップが、音楽業界のセールスの25%を占める巨大市場(Luminate調べ、23年)だから。国内シーンは未成熟のため、シェアを獲得しやすい統合型のメディアで勝負する。