「いつかはグローバル」日本の起業家なら、誰もが一度は抱く夢である。ソニー、ユニクロに続きたい。当たり前に世界を目指す起業家が、ここにいる。
「同世代の起業家と比べたら、私は狂っていないというか、堅実だと思います」。起業家として、FinT代表取締役・大槻祐依の歩みは、ただ一点を除いて、手堅い。2017年、早稲田大学在学中の22歳で起業。フィンテックから転じて始めたSNS起点のマーケティング支援。アサヒビール、Mizkan、三井住友カードなど、大企業からの信頼を勝ち取り、毎年150%以上の成長。累計クライアント数は300社を超え、着実に事業を伸ばしてきた。組織は100名規模まで拡大。3倍の広さのオフィスに、先日移転したばかりだ。
周囲を無謀だと驚かせたのは、突然のグローバル進出だ。23年5月のベトナムを皮切りに、24年中にさらに2カ国進出予定。商習慣も、消費行動も違い、組織基盤もない海外へ。きっかけは、コロナ明けに7年ぶりに訪れた東南アジアだ。「いつも乗っていたバイクタクシーは、HONDAからHYUNDAIに。スーパーの輸入ブランドに、日本の商品が見当たらず、物価は東京と変わらない。日本のプレゼンスの低下がショックでした」。日本を過去の国にしたくない。日本を世界で勝たせたい──帰国後すぐに大槻はCOOと共にアジア各国を視察。すぐさまベトナムへの進出を決めた。
「日本と戦い方は変わらない」。ベトナム進出から1年で、大槻はそう確信した。現地に進出する日系企業を主な顧客に仕掛ける、最先端のトレンドを掴んだマーケティング支援事業。まだ誰も勝ち筋を見出していない施策をいち早く試し、再現性を確立する。仮説検証の思考法に、国境はない。「お客様に育ててもらいながら、成果を出してきました」。任せてもらい、勝たせにいくのがFinT流。「とにかくやってみよう」というベンチャーマインドを持つ大企業への伴走で成長してきた。
ベトナムでは伊藤園の現地法人と仕掛ける。「世界のティーカンパニー」になるべく、看板商品「お〜いお茶」のグローバルアンバサダーに大谷翔平を迎え、本気で世界を狙う伊藤園。24年4月にベトナム法人を新設。わずか2名、ゼロからの立ち上げ。デジタルマーケティングではFinTと組む。甘いお茶を好む国で、甘くない無糖の緑茶を飲んでもらえるか──失敗を恐れず、とにかく挑戦する気概のある日系企業と、日本の緑茶ブランドを、ベトナムで勝たせにいく。