写真と見まがう写実性と美しさをたたえつつも、どこか不穏でほの暗い雰囲気が漂う。雪下まゆのイラストを一度見たら忘れられないのは、底知れぬ“違和感”を覚えるからだろう。2022年の本屋大賞受賞作品『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬)の装丁に描かれた、銃を構える少女の青い目は多くの人の脳裏に焼き付いているはずだ。
雪下は作品を通し、同世代が直面するSNS時代の混沌や未来への漠然とした不安を鋭く描き出す。
「SNSのあり方、社会情勢、老後の資金など、ずっと不安を感じてきた世代。私もそのひとりとして、『時には目をそむけたくなる世の中でも、同じように不安や現実と共存している人間がここにもいるよ』と安心してもらいたい」
小中高と通った一貫校では、集団になじめず生きづらさを感じていた。人間関係での嫉妬や劣等感といった負の感情を、幼いころから好きだった絵で昇華させる日々を過ごした。多摩美術大学入学後、SNS経由で仕事の声がかかるようになり、卒業後はフリーランスで活動。
小説の装丁や雑誌の表紙、CMなどの商業作品を手がけるかたわら、2度の個展で作品を発表し、20年には自身がデザイナーを務めるファッションブランドも立ち上げた。順風満帆な作家人生を送っているように見えるが、本人は一貫して「不安」を口にし大きな野望も語らない。
現実と自身の弱さに向き合うその姿勢が、多くの共感を呼んでいるのだろう。
ゆきした・まゆ◎1995年生まれ。多摩美術大学在学中からSNSで作品を発表し、卒業後はフリーで活動。小説の装丁やCMのイラストなどを手がけながら、デザイナーとして2020年にファッションブランド「Esth.」を立ち上げ。25年3月には自身3度目の個展を開催予定。
レザージャケット86900円(ロゥタス/ロゥタスカスタマーサービスTel:03-6231-0897)トップス、ボトムス、リング、ネックレス(すべてEsth.)