15世紀のヨーロッパを舞台に、「地動説」を命がけで研究する人たちを描いた漫画『チ。-地球の運動について-』。計8巻で累計部数は350万部を突破し、今年10月にはNHK総合テレビでTVアニメの放送がスタートする。
作者の魚豊は、登場人物を通して「社会の本質」を探ろうとする。「状況を分析するだけであれば、それはジャーナリストや学者の仕事です。自分は作家なので、登場人物の主観で語られる物語を描くことが使命です」。
『チ。』にはこんな台詞がある。「文字というのは特殊な技能。(中略)扱うには一定の資質と最低限の教養が要求されるべき。誰もが簡単に文字を使えたら、ゴミのような情報で溢れ返ってしまう」。
15世紀をベースにした台詞ではあるが、現代社会にも「本当の知性とは何か」と疑問を投げかけている。「僕の創作の原動力は”疑問“。問題提起から始めて、最後には結論を出して終わりたい」。担当編集者は「連載が始まった2020年はひろゆきブームで“かりそめの知性”に憧れがあった。そんな時代だからこそ反響が大きかったのでは」と振り返る。
固定観念を“疑うことの良さ”を描いた『チ。』の後には、コロナ禍を経た23年に、陰謀論をテーマにした『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』で“信じることの良さ”を描いた。「作家はコンテンツではないから」と、SNSは最低限で、意識的に社会や世間と距離をとっている魚豊。その視線は次に、何をとらえるか。
うおと◎1997年、東京都生まれ。『バクマン。』に影響を受けて高校時代から漫画の投稿を始め、2017年にデビュー。18年に初連載『ひゃくえむ。』を発表。20年から『チ。─地球の運動について─』、23年から『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』を連載し完結。