2005年に発表された「最後の長者番付」で、私は高額納税者トップとして名前が掲載されました。「タワー投資顧問運用部長・清原達郎」の2004年分の納税額は36億9238万円。3位にはユニクロの柳井正さん(10億8393万円)がおりましたね。投資会社でヘッジファンドを運用する一サラリーマンが日本一の長者として名前が上がったわけで、いろんなことが起きました。埼玉県の元モデルとかいう女性が「5000万円預けたい」といきなり私を訪ねて会社に来たこともありました。これぞ詐欺師という人にも会いましたねえ。
「伝説の投資家」などと呼ばれたり、今年出版した『わが投資術 市場は誰に微笑むか』が15万部を超えるベストセラーになったりと、まあ、こうした評価の元は20年前の「長者番付」にあるわけです。
直観とは経験値の積み重ねである
ただ、私は才能のある投資家ではありませんし、SNSをやりませんので、私を名乗るアカウントはすべて詐欺です。「他人からの情報をうのみにせず、自分で考えて判断する」という至極真っ当な行動原理に基づく投資をしているだけです。例えば私の投資方針は「割安小型株投資」ですが、その理由のひとつはIPO銘柄の財務諸表に「厚化粧」がされている可能性があるからです。どんなに信頼性の高い情報であっても95%くらいに信じておくことが肝心です。なぜなら、時間の経過とともに新しい情報が入ってくるからです。人間は印象第一主義というか、初めに信じた情報を信じ続ける慣性が働いてしまうのですよ。事後的に修正できる余地を残しておいたほうが、判断の確度をあげることができるのです。
ただ、すべての判断が理詰めというわけでもありません。判断の因数の何割かは「直観」です。ただし、大きな判断を下すとき「どこまでが直観でどこからが理屈なのか」は正直わからないと思います。
コロナで株価が暴落した2020年3月、私は力いっぱいメガバンクの株を買いましたが、それが直観によるものかどうか判別できません。暴落した瞬間、私は「これは買いだ」と思いましたが、次の瞬間にはある程度の理屈は考えていましたから。アイデアが出てくる最初の瞬間が「直観」に近い概念かもしれません。ですから、あえて言葉にするとすれば、「直観とは経験値の積み重ね」にほかならないと思います。
投資において直観と理屈の境界線はあるようでないようなものかもしれません。思い出すのはリーマンショックで600億円の実現損失を出してしまったときのこと。ただでさえ致命的な打撃を受けていたところに、ゴールドマン・サックスから「マージンを変更したい」と。これは簡単に言えばロングポジションの100株に対して50のお金を借りられたのに、30に減らしてほしいと言われたようなものです。さらには私の運営するファンドから約半数の顧客が離れていってしまいました。ファンドのお金はどんどん少なくなり、最後には個人預金30億円を全部ファンドにぶちこみ、私の全財産がファンドに投入されました。