そう思い込んでモヤモヤしていた時期の記憶がある人は、私を含めて、少なくないだろう。
こうした思い込みは、経験によって消えていく。恋人との初めてのデートや、初めての一夜を経験することで、「な~んだ、こんなものか」「自分でもできるじゃないか」「みんなやっていることなんだ」と思うようになる。
一方で、実際に経験する機会がなければ、こうした思い込みは消えずに残り続けることになる。
現代は、サブスクリクションの普及で、いつでもどこでも恋愛ドラマや恋愛映画を見放題、恋愛小説を読み放題、ラブソングを聴き放題になっている。自分で経験する前から、恋愛やセックスを追体験し、「恋愛とは何か」「セックスとは何か」という問いに対する百人百様の答えを知ることができる。
しかし、実際に自分で経験する機会がない限り、恋愛やセックスに対する思い込みは決して消えない。むしろ情報過多の中で、どの答えが正しいのかわからなくなった結果、思い込みがさらに強化されてしまうこともある。
そんな時代に注目を集めているのが、女性用風俗である。この10年間で、SNSやスマホの普及と並行する形で、女性用風俗の店舗数や利用者は一気に増加した。学生や主婦、会社員などの普通の女性たちにとっても、ドラマや小説の中だけの話ではなく、現実的に利用可能な選択肢の一つになった。
本書『ルポ女性用風俗』(菅野久美子著、ちくま新書)には、女性用風俗を利用することで、あるいは女性用風俗を経営することで、恋愛やセックスに対する思い込みやコンプレックスを乗り越えることを目指した女性たちの声が多数収録されている。