マーケティング

2024.07.25 09:15

社長の笑い声や新卒の雄叫びがBGMに 「情緒音」という音ブランディング

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企業の認知度向上やイメージの形成を行う方法の一つとして、聴覚に訴えかける「音ブランディング」がある。

一言で音といってもさまざまで、店舗BGMやテレビ・ラジオCM、ネットフリックスを起動した際の「ダダーン音」、PayPayの決済音といったデバイスやアプリにかかわる音まで幅広い。2010年代半ばからは、Spotify上で自社のイメージにあった曲を選曲するブランドプレイリストを作成し公開するという方法や、ブランドのファン増加や顧客のエンゲージメント向上を狙ってポッドキャストを配信するケースもある。

そうしたなか、ここ数年では、自社に関連する製品や場所の音(環境音)を活用してブランドBGMを制作するケースが出てきた。

環境音で「らしさ」を演出

三井化学では、福岡県大牟田市の工場で、材料の搬入等に使用している炭鉱専用鉄道が2020年5月で廃線になることをうけて、同年6月に「ありがとう 炭鉱電車プロジェクト」を実施。電車のガタンゴトンという音や、カンカンカンという踏切の音などを録音し、音源データを専用サイトなどで一般公開。さらにその音の素材を使って、楽曲を制作した。企業の歴史は、会社のイメージを形作る重要な要素の一つ。それを音として残した形だ。



愛知県の東岡崎駅周辺に開業した商業施設「SWING MALL」は、今年4月のオープンに合わせサウンドロゴ(企業名やブランドなどをアピールする際に使われる短いメロディ)を制作した。電車の音、花火の音、水の音など地域の特徴的な7種類の音を集音。岡崎市がジャズのまちとして知られることから、曲をジャズ調に仕上げ、館内放送に合わせて流されている。SWING MALLは、岡崎市が取り組むまちづくり戦略の一環として開業したもので、街に溶け込む存在であることを演出するため、環境音によるBGMを取り入れた。



これらの制作を行った安藤コウは、これまで企業や自治体の音ブランディングをいくつも手がけてきた。トレンドの変化についてこう話す。

「映像コンテンツが飽和してきているなかで、音という側面からブランディングに取り組もうとする企業は増えてきていると感じます。そのうえで、どう『らしさ』を出すかを考えた時に、自社が持つ音(環境音)を使うのが効果的です」

安藤によると、環境音はパーソナライズできることが強みだという。例えば野球場で試合観戦をする様子を映像で流すと、球場の場所や画角、時間帯が固定される。これが音になると、聞いている個人の体験や記憶に基づき、自由に情景を想像できる。

岡崎の例で言えば、電車の音や花火の音は、SWING MALLを訪れる市民にとっては聞き慣れたものだが、体験の仕方は個人によって異なる。「電車の音はいつも散歩をしている時に聞こえてくる」「この花火の音は小学生の時に毎年家から聞いていた」といった具合に、個々人に合わせて記憶を呼び起こすことができる。「音は感動とともに記憶に残る」と安藤は言う。
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文=露原直人

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