仕事の話はしない、フラットな1on1
このような狭き門をくぐり抜けて採用された従業員たち。彼らがグリーンスプーンから離れていかないのはなぜなのか。1on1ミーティングのユニークなやり方にヒントが隠されていた。1on1とは、上司と部下が1対1で対話をする定期的な面談。部下の悩みや目標達成に向けた課題を聞き、上司がフィードバックをするというものだ。
通常このようなミーティングはオフィスの会議室でよく行われるが、グリーンスプーンの1on1は、田邊が従業員を昼食やカフェに誘い和やかな雰囲気のなかで開催される。そこで交わされるのは、業務に関する話題ではなく「最近の人生」の話だという。
もちろん従業員が仕事の悩みを聞いてもらいたいということであれば、その相談にも乗る。ただ、田邊からそのような話題を持ち出すことはなく、事業や業務の細かな話については部署ごとの会議で話せばいいという考え方だ。
「プライベートの悩みを話してくれるなら、単純にそっちのほうに興味がありますし、その人が仕事に迷いなく取り組める状況でないならその話を聞いたほうが良い。創業期には、1on1で恋人に振られて悲しいと泣かれたことがあります。会社はまだ生きるか死ぬかというような状況で、泣いている場合ではなかったのですが、一睡もせずにずっと涙を流して目を腫らしてという人を前にして『どう、原価は安くなってんの?』なんて話はできないですよね(笑)」
田邊の話を聞く限り、従業員と代表との関係性は「部下と上司」のそれではなく、「友人と良き相談者」といったように見受けられる。コミュニケーションがとれているつもりが、ある日突然、不満を溜め込んでいた社員が退職したという話はよく聞くが、グリーンスプーンではそういった齟齬が生まれにくい仕組みが自然とつくられている。
田邊に、100人の組織になっても退職者の出ない組織はつくれるかと問うと、「今回、話したようなことが通用するとは思わない」と前置きをしつつ、「そもそも人が辞めないことが最良であるとは考えていない」とも語った。
「あくまでも自由意志を持った大人の集まりなので、辞めたいと言われたら深追いはしません。仮にご家族が病にかかって、そばにいたいとなれば止めることはできない。でも、それはグリーンスプーンより優先度が高いものができたというだけで、落ち着いたら戻ってきてねと声をかけることもできます。けっして辞めるというのはネガティブなことではありません」
これまで従業員が辞めない理由を探ってきたが、田邊からは何か意図的にテクニックを駆使している様子は見て取れない。対従業員ではなく、常に1人の人として対する姿勢が求心力を生んでいるのだ。