商工中金は2024年4月にM&A支援室と事業承継グループを統合し、M&Aアドバイザリー部を設立した。同部で西日本エリア統括を務める藤井和昭(写真左。以下、藤井)は、部門設立の思いを語る。
「後継者不在のみならず、人口減少によるマーケット縮小、持続的な成長への不安など、複合的な要因によってM&Aを検討する経営者は増えています。また、若い経営者が会社をさらに成長させるために大手企業にグループインする成長志向型M&Aを検討される時代になり、お客さまの多様なニーズにしっかり応える体制を整えました」(藤井)
同じく同部アドバイザーの橋本悠保(写真右。以下、橋本)は、「近年は、M&Aの相談をいただく企業の規模が大型化していると感じます。これまで商工中金が手がけるM&Aは売上高数億円のお客さまからのご相談が中心でしたが、売上高数十億円、従業員が100人を超えるお客さまからご相談をいただくケースが増えています」と、M&A検討企業の現状を指摘する。
M&Aアドバイザリー部は総勢30人。東京と大阪に拠点を構え、日本全国の経営者の悩みによりスピード感をもって対応できる体制を整えた。その顔ぶれとしては、10年以上M&A業務にたずさわる経験豊富なメンバーのみならず、中小企業診断士や社会保険労務士、不動産鑑定士などの資格保有者が多数在籍するほか、税理士等も出向しており、多面的な視点から提案することができる専門家が集結する。
経営者にとっての最適解を一緒に見つける姿勢を貫く
M&Aアドバイザリー部は、中小企業から承継に関する相談があれば、全国47都道府県にある支店の担当者とともに訪問する。「初回訪問ではお客さまの悩みをお聞きするところから始めます。そして、将来どのように会社を成長、発展させたいのかなど今後のストーリーをうかがっていきます。そのうえで、選択肢として親族内承継、MEBO(役員または従業員への承継)、M&Aなどの承継方法をご説明していきます」(橋本)
「承継に関する悩みは、経営者にとって半年や1年といった短期間で決断し、解決されるものではありません。役員・従業員はもちろん、家族にさえ相談できないケースも珍しくなく、親族内承継やMEBO、M&Aなどの複数の選択肢のなかで思い悩まれる方は非常に多いです。こうした揺れ動く心情は経営者として当然の心理、ということを理解していますので、ささいなことでも、お考えをお聞かせいただきたいです」(藤井)
何代にもわたり承継されてきた歴史的背景や経営者の会社に対する思いなどをアドバイザーが把握していることは、経営者が心から納得するM&Aを成立させるために欠かせない。だからこそ、商工中金では中長期的な視点で顧客本位の姿勢を大切にする。そのため、経営者は、M&Aの話を進めている途中でもMEBOに移行する、またはその逆など当初とは異なる選択をとる場合もある。
どのような結論に至ったとしても、「お客さまの事業が円滑に継続されるようたずさわっていく」と橋本は言う。
「お客さまは、歴代の支店の担当者とも何十年にもわたって信頼関係を築いてきた方々ばかりです。強引にM&Aを進めて、これまでの信頼を損なうことがあってはなりません」(橋本)
藤井も「M&A成立後も、譲渡企業と譲り受け企業の双方がともに成長することが重要ですし、お客さまと商工中金との間ではご融資などのお付き合いは続きます。M&Aによって事業が継続でき、従業員もより安心して働けるよう、腰を据えて経営者とじっくり話し合い、最適解を見つけていくことが何よりも大切です」と、商工中金がM&A業務を行う意義を語る。
これまでに手がけたM&A支援には、商工中金ならではの事例が多くある。橋本が担当した運送業の場合、譲渡企業側の経営者からM&Aの相談を受けてから株式譲渡の成立までに5年以上の歳月をかけた。その経営者は、当初はM&Aの意向があったものの、M&Aプロセス中に一度親族内承継へ考えが変わった。しかし、運送業界の働き方改革などの業界動向をふまえ、自社単独で経営するよりも、やはりM&Aによりパートナーを探すことが最善であると再考しかじを切った。その間、経営者は、将来自社のあるべき姿、親族や従業員の人生、運送業界の将来などあらゆる観点で葛藤を抱き続けていたという。
「M&Aアドバイザリー部のみならず支店の担当者もお客さまのお話、ご意向をうかがい、その葛藤に寄り添い続けました。じっくり時間をかけたからこそ、お客さまは最も納得できる結論が出せたと思います」(橋本)
また、最適なマッチングを実現するために、地域金融機関とも連携している。地域金融機関の営業エリア内でM&Aの相手先を探せなかった場合などに、商工中金の全国ネットワークから最適な譲り受け候補先を探し、マッチングをしていく。
「地域金融機関との連携を含め、外部ネットワークが充実しているのも当金庫の強みです。地域金融機関との連携は引き続き強化していき、より多くの中小企業にM&Aを通じた成長機会を提供したいと考えております」(藤井)
変化に強い中小企業を増やし、社会的インパクトを生み出す
M&Aアドバイザリー部のミッションは、中小企業から選ばれる存在であることを目指し、付加価値を提供すること。「当金庫には、中小企業専門の金融機関として全国の中小企業と深く接してきた歴史があります。各業界に対する深い知見や事業性評価などのノウハウを生かし、企業の成長を後押しするM&Aを実現できることは当金庫の強みです」(藤井)
また、これまでは事業ライフサイクルの成長期から安定期にある企業のM&A支援が多かったが、今後は創業期や衰退期の企業にも対象を広げ、M&Aを通じて企業の持続的な発展をサポートしていきたいという。「中小企業の経営者がもつ夢や情熱のバトンをご納得いただけるM&Aというかたちで次世代につなげ、大きな社会的インパクトを生み出したい」と橋本は展望を語る。
中小企業の経営者は、取引先との関係や資金繰り、人材確保、事業の継続など、複雑に絡み合う経営課題を目の前にして日々葛藤している。こうした経営者にとって、長期的な付き合いがあり、自社の歴史や経営を深く理解している商工中金という存在があることは、M&Aを選択する際に大変心強い。
M&A支援だけでなく、融資なども含めた総合金融サービスを提供する商工中金は常に経営者に寄り添う。
「M&A含め、事業承継における検討事項は多岐にわたり、その方針決定には信頼できるアドバイザーの活用が不可欠であると考えています。商工中金ではM&Aだけでなく、親族内承継やMEBOなど幅広い支援が可能であり、M&Aありきで話を進めません。経営者に寄り添って最適解を見つけるスタンスで活動しておりますので遠慮せずまずはご相談ください」(藤井)
商工組合中央金庫
https://www.shokochukin.co.jp/
ふじい・かずあき◎商工組合中央金庫 M&Aアドバイザリー部西日本エリア統括。国内金融機関での法人営業経験を経て2011年よりM&A業務に従事。その後、M&A仲介会社での勤務を経て、21年に商工中金に入社、M&A支援室に配属。23年に大阪拠点を立ち上げ、西日本エリア統括として活動中。中小企業診断士。
はしもと・ゆうほ◎商工組合中央金庫 M&Aアドバイザリー部マネージャー。2009年商工中金入社。富山支店、神戸支店にて法人営業に従事し、18年にソリューション事業部配属(現M&Aアドバイザリー部)。事業承継支援業務を経験後、19年よりM&A業務に従事。経営学修士(MBA)。