経営・戦略

2024.07.29 08:00

V字回復で過去最高業績、躍動する「自律型感動人間」

山本健策|スーパーホテル代表取締役社長

山本健策|スーパーホテル代表取締役社長

7月25日発売のForbes JAPAN 2024年9月号は、「新・ブレイクスルーの法則」特集。近年、日本経済の未来の担い手として、スタートアップや大企業の新規事業など「ゼロイチ」のイノベーション創出が注目され、売り上げ数十億円規模までの事業開発に関する方法論やノウハウの蓄積が進んできた。これからの重要な論点は、その先にある100億円、もう一歩進んだ1000億円の壁をぶち破る企業を増やしていくことだ。爆発的成長を遂げた企業のケーススタディをもとに、一段上のブレイクスルーを起こすための法則を探った。
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インバウンド需要などの追い風を受けてホテル産業が活況を呈している。スーパーホテルが業界水準を上回る好調ぶりを見せる背景には、顧客の感動を生み出す独自の仕組みがあった。


「内心では正直、ガッツポーズです」

ホテル経営者らしい落ち着いた紳士的な振る舞いとは裏腹に、スーパーホテル代表取締役社長の山本健策は嬉々とした胸中を打ち明ける。国内外172店舗を構えるビジネスホテルチェーン大手の同社は、2024年3月期に売上高481億円を計上し、営業利益とともに過去最高を更新した。

コロナ禍による外出自粛で大打撃を受けた21年3月期からの劇的なV字回復だ。政府の観光需要喚起策やインバウンド需要の拡大という追い風を受けて業界が活気づくなか、スーパーホテルの平均客室稼働率は85%と、ビジネスホテル全体の69.4%(23年、観光庁調べ)を上回る復活ぶりを示している。
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8種類の枕を揃えて「ぐっすり眠れなかったら全額返金」という独自の品質保証を提供したり、早くからデジタル化を推進し、チェックアウトやルームキーを不要にしたりと、同社の睡眠の質へのこだわりや利便性の高さは、以前からビジネス層に支持されてきた。一方で今回のV字復活には、危機を勝機ととらえて取り組んだ、顧客層を女性やファミリーに広げる施策が大きく貢献している。

例えば、有名美容ブランドのシャワーヘッドやドライヤー、ヘアアイロンなどを揃えた部屋に宿泊できる女性向けプランを用意すると、「ストレスを解消したい」「一度使ってみたい製品だった」などの理由で、店舗の近隣に住む女性客の利用が増えた。地元飲食店の食事券をセットにした宿泊プランは、ファミリー層の来店のきっかけに。徒歩圏内に飲食店がない店舗では、近隣の寿司屋の職人にホテルで握ってもらう「出張寿司」を考案し、人気を博した。

「自発性」を促す仕組み

注目すべきは、こうした取り組みの多くを生み出したのが各店舗の支配人やスタッフたち自身であるということだ。山本が説明する。「わが社には、1人ひとりが経営者感覚をもって店舗運営に取り組んでもらうための仕組みがあるんです」。
 
そのひとつが、「ベンチャー支配人制度」だ。これは支配人、副支配人と業務委託契約を結び、店舗運営を任せる仕組み。彼らの多くは将来、起業することを目標としており、172店舗のうち9割がこのベンチャー支配人、副支配人によって運営されている。業務内容は採用、集客、サービス、教育など運営に関わるすべてだ。

そして、ベンチャー支配人のみならず、本社の社員やアルバイトを含む全従業員に対して、スーパーホテルは「Faith(フェイス)」というカードを配布している。そこには、顧客を第一に考える経営理念や行動指針とともに、それらを体現する人物として「自律型感動人間」という人材目標が掲げられている。

自律型感動人間は、自発的に考え行動し、宿泊者を感動させる従業員のことを指し、客も気付いていない潜在ニーズを読み取って行動することが究極の姿だ。例えば、送迎会の帰りで花束を抱えている宿泊客を見つけ「よければこちらの花瓶をお使いください」とさりげなく提案するといった具合である。
次ページ > 自律型感動人間の育成

文=フォーブス ジャパン編集部 写真=佐々木 康

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