経営・戦略

2024.07.29 08:00

V字回復で過去最高業績、躍動する「自律型感動人間」

各店舗では毎朝10時になると、スタッフ全員がフェイスを手元に、経営理念や行動指針に基づく自身の接客や改善すべきことを自由に話し、それに対して支配人やほかのスタッフがフィードバックをする「Faith up(フェイスアップ)」が行われる。各自が経営理念や行動指針を主体的にとらえるためのきっかけをつくり、そのすり合わせを繰り返し行うことで、自然と理念に基づく行動がとれるようになるという仕組みだ。

ベンチャー支配人制度による独立した店舗運営の推進は、本社の方針との衝突や、店舗の統一感が失われるというリスクも孕んでいる。フェイスアップによる自律型感動人間の育成をセットにして行うことで、全員の向きを揃えられるというわけだ。「現場を訪問して、オペレーションがうまく回っていないとか、接客に不備があるとかといった違和感を抱くときは、大抵の場合、フェイスアップがおろそかになっています」と山本は言う。

創業者の山本梁介は、「自律型感動人間の育成ができれば、経営の8割は成功したもの」と常々口にしていた。コロナ禍では、三密を防ぐために本社主導での実施は控えていたが、従業員たちは少人数で集まって自らフェイスアップを行っていたという。

政府の「全国旅行支援」が終了した今、ホテル業界にとって最大の関心事は、インバウンド需要という追い風を掴みどう飛躍していくかだ。スーパーホテルでは、北海道や東京、京都といった観光地77地区を「インバウンド特区」として設定し、外国人宿泊客を徹底的に取り込むための施策を打っていく。すでに海外向けのSNSを活用したマーケティングを開始したほか、海外で運営する日本人向けの店舗で外国人のベンチャー支配人を育成し、ゆくゆくは日本で活躍してもらう構想も動き出している。

海外店舗を置くミャンマーでは、育成した現地スタッフを5つ星ホテルが引き抜こうとする動きもあった。「2倍以上の給与を提示されたそうなのですが、『スーパーホテルだから自分は成長できた』という理由で、当社に残ってくれたんです」と山本は誇らしげだ。5つ星ホテルをも魅了する自律型感動人間が、国境を越えて躍動している。



山本健策◎
1976年生まれ。第一勧銀情報システム(現みずほ情報総研)を経て、家業のスーパーホテルに入社。フロント営業から始め、主要部門を歴任。コロナ禍の2020年10月、社内を若返らせ、活気を取り戻す起爆剤として、先代から社長に指名された。

文=フォーブス ジャパン編集部 写真=佐々木 康

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年9月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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