大砲の損害は確認が難しい
大きな問題は、ロシア軍の大砲の「消耗率」、つまり戦場で撃破されているペースがどのくらいなのかだ。前線付近で撃破される戦車や歩兵戦闘車と違って、大砲の損害は視覚的に確認されることがはるかに少ない。OSINT分析サイトのオリックス(Oryx)でも、ロシア軍の牽引砲の損害は385門、自走砲の損害は789門しか確認されていない。
HighMarsedの推計によれば、ロシアは自走砲を1500両ほど保管施設から引き出した可能性がある。英国の国際戦略研究所(IISS)の「ミリタリー・バランス」によると、ロシア軍が戦争前に保有していた自走砲は約2500門だった。合わせて4000門ほどとなるが、前述のとおり配備数は今年初め時点で1000両弱にとどまる。差し引き3000両のうち、一部はまだ再就役に向けた修理が終わっていないものとみられるが、大半は視覚的に確認できない損失である可能性が高い。
HighMarsedは「個人的には、証明されていない主張はうのみにしたくありません」とも述べている。
ただ、あえて推論を進めてみると、興味深いパターンが浮かび上がる。
大砲の撃破急増を示唆するデータ
ウクライナ国防省が毎日更新しているロシア軍の装備の損害数は、オリックスで確認されている数よりも相当多くなっている。戦車8000両超、大砲1万5000門超という累計損害数はかなり水増しされているか、少なくとも「楽観的」なカウントに見える。ただ、注目されるのは、同省の発表でここ数カ月、ロシア軍の戦車の損害数はおおむね横ばいなのに対して、大砲の損害数が増えていることだ。
撃破された大砲の数は2023年5月には553門だったが、1年後の5月には過去最多(当時)の1160門を記録した。
It's another record 🔥
— Defense of Ukraine (@DefenceU) June 1, 2024
1160 russian artillery systems were destroyed in May.
It's the biggest number of artillery losses in two years of the war. And Ukrainian warriors continue to transform russian weapons into scrap metal. pic.twitter.com/86YXj1a38U
数ははるかに少ないが、確認されている撃破数でも同様の傾向がみられる。OSINTアナリストのアンドルー・パーペチュアによる映像分析によれば、7月前半に撃破が確認されたロシア軍の大砲は75門と、これも過去最多に膨らんでいる。
ウクライナ政府のドローン調達プロジェクト「アーミー・オブ・ドローンズ(ドローン軍)」の発表でも、同様の急増が示されている。
繰り返しになるが、ウクライナ政府の発表は絶対数がずれている可能性があり、データはプロパガンダとみなされるかもしれない。それでも、発表での戦車損害数がおおむね同数で推移しているのに対して大砲損害数が3倍に増えていることは、何らかの変化が起きていることを示唆する。