経営・戦略

2024.07.27 08:00

ハローキティ「一本足打法」からの脱却 複数キャラ戦略で急成長フェーズへ

辻󠄀 朋邦|サンリオ代表取締役社長

7月25日発売のForbes JAPAN 2024年9月号は、「新・ブレイクスルーの法則」特集。近年、日本経済の未来の担い手として、スタートアップや大企業の新規事業など「ゼロイチ」のイノベーション創出が注目され、売り上げ数十億円規模までの事業開発に関する方法論やノウハウの蓄積が進んできた。これからの重要な論点は、その先にある100億円、もう一歩進んだ1000億円の壁をぶち破る企業を増やしていくことだ。爆発的成長を遂げた企業のケーススタディをもとに、一段上のブレイクスルーを起こすための法則を探った。

上場中堅企業を対象とした時価総額ランキングで1位となったサンリオ。鮮烈なV字復活劇を見せており、「ハローキティのサンリオ」のイメージは近い将来、大きく変わるかもしれない。



サンリオの2024年3月期決算は記録的な好業績となった。売上高は前年同期比37.7%増の999億円、営業利益は103.5%増の269億円で10期ぶりに最高益を更新した。14年3月期以降、減収減益が続き、コロナ禍という向かい風を受けて21年3月期にはとうとう営業赤字に陥ったが、翌22年3月期からは回復基調に。もはやV字回復という言葉では表現しきれない、新たな急成長のフェーズに入ったといってよさそうだ。

この鮮烈な復活劇は、20年7月に就任した辻󠄀朋邦の社長としての歩みと軌を一にしている。創業者で祖父の辻󠄀信太郎(現名誉会長)からトップの座を引き継いだが、入社は14年までさかのぼり、課題の抽出と変革の準備に取り組んできた。社長就任を機に本格的な実行段階に移ったかたちだが、「それにしても想定以上の成果が出ている」と手応えを語る。

辻󠄀の社長就任以降、サンリオは新たな取り組みを複合的に進めてきた。そのひとつが「複数キャラクター戦略」だ。キャラクターのIPを使ったライセンスビジネスは同社の主力事業のひとつ。

今年で誕生から50周年を迎えたハローキティの知名度は国内外で圧倒的だが、特定のキャラクターに依存した「一本足打法」では、ブームに左右される不安定なビジネス環境に身を置かざるをえなくなる。従来、特に海外ではハローキティ依存が顕著で、ここに手を入れた。過去最高益を出した14年は海外売り上げの93%がハローキティ関連のビジネスだったが、直近ではその比率が50%程度まで下がっているという。

「ハローキティとほかのキャラクターを組み合わせたキャラクターミックスというかたちでライセンスを展開しました。かわいらしさやデザイン性は我々のIPの強みですから、ハローキティを入り口にさまざまなキャラクターの認知度を高めることができた」

コロナ禍で物販店舗やテーマパークなどの物理的な顧客接点の稼働が限定的になったことを受け、SNSやeコマースなどのデジタルなタッチポイントの拡大に注力してきたことも、ポートフォリオ多角化の基盤となっている。近年、人気が急騰したキャラクターのひとつであるクロミは、サンリオキャラクターの人気投票企画「サンリオキャラクター大賞」の結果や潜在的なファン層のリサーチを基に、戦略的にマーケティング投資を集中させたキャラクターの一例だ。

「クロミはZ世代にヒットしているキャラクターなんですよ。Z世代は拡散力やムーブメントをつくっていく力が非常に強いので、クロミを通してサンリオ全体に注目してもらえる。ハローキティだけでなく、さまざまなキャラクターにも目を向けてもらえる循環ができたんです」
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文=本多和幸 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年9月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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