元日銀総裁が指摘する“失われた30年の本質”
藤吉:先日、取材で元日銀総裁の黒田東彦さんにお会いしたんです。印象的だったのは「自分が総裁になった時点(2013年)で、日本ではデフレが十数年続いていた。
“失われた30年”の萌芽は1980年代に既にあったと思う」という趣旨のことを仰ったんですね。この感覚は前回(https://forbesjapan.com/articles/detail/71768)、阿部さんとお話した「周期」説に通じるものがありますよね。
阿部:まさに日本の経済活動の「消長と波」のド真ん中におられた人ですからね。
藤吉:黒田さんは、「産業革命以降、デフレがこれだけ長く続いた国というのは歴史上、ありません」という言い方もされてました。〝黒田バズーカ〟(異次元の金融緩和政策)にしても「異常な事態に対しては、異常な政策で対応するしかなかった」と。
阿部:私も同じ意見です。そういう意味では、まさに「異常値」なんですよ。
藤吉:今日は「今の日本企業をどう見るのか」というテーマでお話をうかがいたいのですが、その前段として、黒田さんも指摘する〝失われた30年〟問題の本質を押さえておいたほうがいいな、と思うんです。
阿部:確かに。この異常な30年を日本企業がどうやって生き延びたのかというのは、実はすごく面白いポイントです。
日本の凋落と中国の台頭
阿部:で、この30年で世界がどう変わったのかを見るには、これが一番わかりやすい。藤吉:このグラフは連載第2回でも出てきましたね。
阿部:僕は暇さえあれば、このグラフを見て、色々とストーリーを考えるのが好きなんです(笑)。これを見て、まず特筆すべきことは、日本の相対的地位の没落です。
1989年──これはスパークスの創業年でもありますが──には世界全体のGDPに対して、日本のGDPは14%を占めていたのが、2022年にはたった4%まで下がっている。成長率の平均に至っては0.9%という異常な低さです。
特筆すべきことの第2点は、没落する日本と入れ替わるような中国の台頭です。僕が創業した当時、全世界のGDPに占める中国の割合はわずか2%で、投資家としては視野にも入っていなかった。それが2022年には全世界のGDPの18%を占めるに至りました。成長率の平均は年率で12.7%。これまた異常に高い数値で、それこそ「周期」説でいえば、維持できるはずがないんです。
藤吉:実際、中国はコロナ禍以降、明らかに失速していますよね。