経営・戦略

2024.07.25 08:00

パリオリンピックは起爆剤、米市場再挑戦の裏にある勝算

高岡本州|エアウィーヴ代表取締役会長兼社長

高岡本州|エアウィーヴ代表取締役会長兼社長

7月25日発売のForbes JAPAN 2024年9月号は、「新・ブレイクスルーの法則」特集。近年、日本経済の未来の担い手として、スタートアップや大企業の新規事業など「ゼロイチ」のイノベーション創出が注目され、売り上げ数十億円規模までの事業開発に関する方法論やノウハウの蓄積が進んできた。これからの重要な論点は、その先にある100億円、もう一歩進んだ1000億円の壁をぶち破る企業を増やしていくことだ。爆発的成長を遂げた企業のケーススタディをもとに、一段上のブレイクスルーを起こすための法則を探った。
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この夏、開幕するパリオリンピックに並々ならぬ思いを抱えている企業がある。上場を凍結してまで挑む世界展開。果たしてエアウィーヴは寝具業界の金メダリストになれるか。



2023年7月、エアウィーヴを率いる高岡本州は急きょパリへと飛んだ。パリ2024オリンピック・パラリンピックではオフィシャル寝具サポーターを務めるが、大会に提供する寝具を発表する会見の直前になって、組織委員会から物言いがつき、折衝の必要があったからだ。

エアウィーヴは東京2020オリンピック・パラリンピックでもオフィシャル寝具パートナーを務めた。スポンサー契約は毎回狭き門だが、自国開催の東京では地の利を生かして獲得に成功した。しかし、パリ大会は完全アウェー。地元のフランスメーカーを含む10社以上の応募があり、エアウィーヴは劣勢を強いられていた。
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下馬評を覆せたのは、高岡に秘策があったからだ。エアウィーヴはこれまで数々のアスリートに寝具を提供して高い評価を得ていた。製品の品質には絶対の自信がある。機能性の高さを、組織委員会の現場担当者に理解されている手ごたえもあった。問題は、最終的に決裁する組織委員会のボードメンバーだと思った。

「ボードのみなさんはアスリートや現場と距離があり、快眠に関する研究データは刺さりにくい。一方、文化的素養が非常に高くて、伝統的なものには関心が高いはずです。実はエアウィーヴは13年からパリ・オペラ座のバレエ学校に寝具を提供しています。また、17年には高級ホテルのザ・リッツ・パリと提携して寝具を開発。ふたつの名門との実績を強調することで心をつかめるはず」

その戦略が実り、22年にはスポンサー契約の内示を得た。条件のひとつはフランス国内でリサイクル、リユースすることだったが、それも満たした。万全の体制を整えてあとは記者発表を待つばかり。ところが冒頭に紹介したように、1週間前になって待ったがかかったのだ。

エアウィーヴのマットレスは、選手の体形に合わせて硬さをカスタマイズできるよう三分割になっている。ただ、東京大会ではカバーがファスナー式で、選手が自分でカスタマイズするのに手間がかかった。その反省からパリ大会はカスタマイズしやすいボックスシーツに進化。しかし組織委員会の幹部が突如、「なぜ変えたのか。元に戻せ」と言い始めた。

「選手には利便性が高いボックスシーツがいい。そのことを直接説明するのに0泊でパリに出張しました。ただ、向こうにもメンツがあり、一度振り上げた拳は簡単に下ろせない。結局その場ではOKがもらえず、記者発表用にふたつのタイプを用意。当日まで自分たちの推奨したタイプが選ばれるかわからずにドキドキしました(笑)」

最終的に進化版が採用されて胸をなで下ろしたが、そもそもなぜ高岡はパリ大会に力を入れるのか。それは次の飛躍に欠かせないピースのひとつだからである。

エアウィーヴが売り上げ110億円を計上したのは14年だった。11年は11億円であり、3年で10倍という急成長だ。しかし、アメリカ進出に失敗して3年ほど成長の踊り場が続いた。その後、勢いを取り戻して22年には売り上げ217億円と順調に成長。しかし23年は売上213億円と横ばいに。

「国内の寝具市場はほかの産業と比べて必ずしも大きくありません。次のステージに飛躍するには、やはり海外展開が欠かせない。パリ大会は、世界で認知を高めるための重要な施策のひとつです」
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文=村上 敬 写真=ヤン・ブース

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