実は当時からもアポロ11号による月面着陸はフェイクなのではないかという「陰謀論」がまことしやかに流れていた。
それには、ニール・アームストロング船長とバズ・オルドリン操縦士の歩く姿が不自然、月面からの映像に星が映っていない、真空であるはずなのに星条旗がはためいているなど、さまざまな理由もつけられていた。
「1人の人間にとっては小さな1歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」というアームストロング船長の歴史的名言とともに、月面から全世界に生中継されたモノクロの映像は、とりわけ深く印象に残ったものだったが、何かつくられたものという感じがしないでもなかった。陰謀論はそのあたりからも囁かれていたのかもしれない。
映画「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」は、この人類初の偉業に対して流布された陰謀論から着想を得た物語だが、それ自体を描いたものではない。
意外にもNASA(アメリカ航空宇宙局)の全面的協力を得てつくられたこの作品は、かなり作品としてのクオリティも高い。時折コメディタッチなども交えながら、未踏のミッションに関わる人間たちの真摯な思いが描かれたヒューマンドラマでもある。
NASAに乗り込んだ敏腕女性マーケター
1961年、時のアメリカ大統領ジョン・F・ケネディは、議会の演説で「今後、10年以内に人間を月に着陸させ、安全に地球に帰還させる」と宣言する。この大統領の肝煎りで始まった月面着陸の「アポロ計画」だったが、プロジェクトは当初から事故に遭遇し、予算は嵩み、国民の関心も薄らいでいた。プロジェクトに関わる政府関係者のモー(ウディ・ハレルソン)は、この不人気を挽回すべく、ニューヨークのマディソン街で働く敏腕広告マーケターのケリー(スカーレット・ヨハンソン)に声をかける。
NYの広告業界仕込みの戦略でNASAのPRを展開するケリー
ケリーは単身NASAに乗り込み、プロジェクトを世界に向けてアピールするべく、数々の施策を打ち出す。アポロ計画の宇宙飛行士にそっくりな役者を使い、「ビートルズより有名にする」と意気込んでメディアに登場させイメージ戦略を敢行する。
また、人気商品とタイアップしながら、一般の人たちへのプロジェクトの認知度を向上させるなど、広告業界の手荒い手法で月面着陸ミッションを世の中に「売り込んで」いく。
実直で仕事一筋のNASAのプロジェクトの発射責任者コール(チャニング・テイタム)は、このケリーの強引なやり方を苦々しく思いながらも、着実に成果を上げていく彼女の情熱を傾けた仕事ぶりに、少しずつ心が惹かれていく。
多くのスタッフとロケット発射を見つめる責任者のコール(左端)