経営・戦略

2024.07.18 21:15

「物流業界2030年問題」に斬り込む 野々市運輸機工の『ショート動画で求人』大作戦

求人難に「人を集めるための試行が少ないのでは」


順風満帆にも見えるが、吉田氏が専務として経営に関わり始めた2013年ごろは、労働環境が整っていなかった。「社内の雰囲気は殺伐としていた」と、吉田氏は振り返る。

そこで行ったのが、現場からの意見の吸い上げ、経営理念の策定、経営理念を体現するための取り組みだ。同社は経営理念に掲げている「和と感謝の心」を体現するために、「ありがとうカード」を実践してきた。

Googleフォームから「◯◯さん、ゴミを拾ってくれてありがとう」といったメッセージを送信すると、チャットツールから従業員全体に共有される仕組みだ。さらに100回のメッセージに1度は当たりが出る遊び心のある機能を、吉田氏みずから構築した。

「お金とは異なり、感謝の気持ちは無限に湧いてきます。長所に目を向けて、相手に感謝する習慣を作ることは組織運営において重要だと感じています」(吉田氏)

この取り組みで、「ありがとう」の連鎖が生まれた結果、従業員同士の仲違いが解決した事例もあるそうだ。

他にも、「免許取得費用は全額会社が負担」「育児や介護などの急な休みを取得しやすい体制作り」「スキルアップに応じた昇給」といった人が定着する土台がある。2013年からの10年あまりで、こうした地固めをしたうえで、ショート動画とSNSを活用した採用が実っているのだ。

吉田氏は、物流業界の求人難について「人を集めるための試行が少ないのでは」と見解を示す。

「穴の空いたバケツに、水を入れても意味がありません。まずは組織の土壌作りをして、バケツの穴をふさぐ必要があり、これに時間がかかります。それから発信によって認知を獲得して、水を入れていくイメージです。情報発信にお金はかかりませんので、周囲にも勧めています」(吉田氏)

50万再生突破! 若手社員の感性を活かし、広がる認知


現在、同社のショート動画作成は、4月に入社した新入社員が担っている。なぜなら、一際再生数が伸びている動画を作成したのが、内定者インターン生の頃の同社員だからだ。福利厚生として設けられているお菓子コーナーを紹介するこの動画は、50万再生を突破した。若手社員の感性が、ターゲットに刺さるコンテンツを生み出していく。

少子高齢化や人手不足の深刻化に向けた企業の取り組みとして、人材の確保は急務といえるだろう。事業を持続的に成長させるためには、若手人材の力が必要だ。古きにとらわれず、柔軟にチャレンジする企業が生き残っていくのかもしれない。




田中なお◎物流ライター。物流会社で事務職歴14年を経て、2022年にライターとして独立。現場経験から得た情報を土台に、「物流業界の今」の情報を旺盛に発信。企業オウンドメディアや物流ニュースサイトなどで執筆。

文=田中なお 編集=石井節子

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