食&酒

2024.07.23 15:00

日本でも広がる「自然派ワイン」 原点にある反体制思想と未来への希望

いわゆる銘柄やヴィンテージなど、それまでのワインの敷居の高さを取り払って、その造り手や土地の個性、そして何よりも飲み心地に重きを置いた自然派ワイン。この価値観は、一体どのように広がっているのだろうか。
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「ナチュール」という表現(フランス語で「自然の」を意味する)も日常になじみ、日本でもかなり浸透してきた自然派ワイン。パリをはじめフランスでは、街のビストロやレストラン、ワインバーに並ぶワインも、2010年代以降はむしろナチュールが主流になっている。近年は、星付き店のワインリストにも普通にその造り手の名前が入るほどだ。
 
日本とフランスにおいて、いち早く自然派ワインに親しみ、ドメーヌを訪問しては生産者に取材し(ときには収穫まで手伝って!)、社会学的見地からも研究する早稲田大学の福田育弘教授に聞いた。

ワインの「再自然化」とは

「フランスでは健康への意識の高まりや、環境への配慮というムードもあって、特に若い世代は積極的にナチュールを飲んでいるように思います。都市部のインテリ層も好んで飲む印象がありますね。軽い飲み心地で、体への負担が少ないので、普通のワインには戻れなくなるんでしょう」。よく自然派ワインの定義は未だ曖昧だと指摘されるが、一つ明確な特徴が「酸化防止剤(SO2)不使用」であり、そのため「二日酔いになりにくい」といわれている。ワインとともにある食の好みの変化も追い風だ。「日本はフランスに次ぐ自然派ワインの市場ですが、素材を味わう繊細な日本料理と、それを楽しむ日本人の舌にはまったんでしょうね。フランスでも、ソースが中心の典型的な料理よりも、食材本来の味を引き出すスタイルが好まれる傾向にあり、どっしりしたボルドーよりもナチュールが選ばれているようです」。
 
自然派ワインが生まれ、広まった歴史的背景には「再自然化の流れがある」と教授。もともとフランスのワイン造りは、農産物であるブドウの栽培から醸造まで一貫して行われていたが、戦後に産業として拡大し、組織化されるなかで「脱自然化」していく。効率的なワイン生産を追求するがゆえに、「自然」であったはずのワイン造りに化学が入り込んできたのだ。しかし、その結果が環境破壊や自然災害として跳ね返ってきたことで、伝統への回帰が注目され、化学的知見にもとづきつつ、その知見を選択的に活用する時代にきたという。
 
自然派ワインの父と呼ばれるマルセル・ラピエールが師と仰いだのがジュール・ショーヴェで、彼は「化学に頼りすぎないために微生物学を研究」したうえで、1950年代から自然なワイン造りをした開祖とされる。その影響を多分に受けてラピエールが造ったワインは、80年代以降、多くの人を魅了した。
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文=梶野彰一 写真=田熊大樹

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