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2024.08.07 16:00

【大澤正彦 × 西口昇吾】AI研究者と経営者が語る、生成AI時代のビジネス未来予想図

大阪最後の一等地「うめきた」で、2024年9月「グラングリーン大阪」が先行まちびらきを迎える。そこで大学の研究機関や、さまざまな規模の企業が入居し、イノベーションの集積地になることを目指しているのが「JAM BASE(ジャムベース)」だ。

このグラングリーン大阪内にAIアバターがコミュニケーションする未来型店舗がオープンする。その仕掛け人がAVITA取締役副社長COOの西口昇吾。アバターや生成AIを使った各種サービスで人類の労働生産性を上げることを目指す同社は、JAM BASEを大阪におけるひとつの活動拠点とすることが決まっている。

連載第9回のテーマは、生成AIなどテクノロジーの発展によって、人間の働き方はどのように変わっていくのか。アバターを使ったサービスを展開する西口と、「ドラえもんを本気でつくる」という研究プロジェクトを進める気鋭のAI研究者、日本大学文理学部 大澤正彦准教授が語り合った。

アバターやロボットに「心」は宿るのか? 


——大澤先生は「ドラえもんをつくる」を掲げた研究に取り組まれる一方、西口さんはアバターを用いたリモート接客サービスなどの開発を手がける会社を経営されています。お二人の専門領域について、改めて教えてください。

大澤正彦(以下、大澤):専門は人工知能(AI)です。現在は、「ドラえもんを本気でつくる」というプロジェクトを進めています。これはただ「自然言語を話す」とか「四次元ポケットを持っている」といった機能を実現することだけを意味するものではありません。そういった技術開発を進めるとともにみんなが「これはドラえもんだね」と認めることを「ドラえもんの定義」と位置づけ、それを実現しようとしています。

例えば、みんなにドラえもんと認められやすくなるために「心を感じられるロボット」を実現する研究に取り組んでいます。のび太とドラえもんのように人とロボットが”認め合う”とはどういうことかを解明できたとき、ドラえもんの実現がグッと近づくのではないかと考えています。ディープラーニングをはじめとするAIの先端技術に加え、認知科学、神経科学、心理学などの知見も用いて、知能とは何か、心とは何かという謎に迫っています。

西口昇吾(以下、西口):私は「アバターで人類を進化させる」というビジョンを掲げるAVITAで、取締役副社長COOをやっています。ロボット学の世界的権威である大阪大学石黒浩教授と共同創業した会社で、AIやアバターの技術を用いて、社会のさまざまな課題を解決したいと考えています。私たちがミッションとしているのは、人口減少社会における人材不足の問題をアバターで解決し、人類の労働生産性を上げることです。そのため、アバター接客サービス『AVACOM』やアバターAIロープレ支援サービス『アバトレ』などを提供しています。

これまで、約500名の方が給与を得ながらアバターワーカーとして活動しています。この中には、障がいを抱える方や外出困難な方もいます。アバターを使って、人間の仕事を代替するのではなく、人間の可能性を拡張するという考え方が、私の目指すものに近いかもしれません。

大澤:西口さんも石黒先生の研究室にいたんですよね?

西口:はい、私もロボットやアバターの研究に携わっていた経験があります。卒業後は、テレビ局に就職し、VTuberの事業を立ち上げたりしていました。2021年に独立して、AVITAを創業し、現在に至ります。大学で近い分野の研究をしていたので、今日の対談をとても楽しみにしていました。

——グラングリーン大阪のJAM BASEには、石黒浩教授も携わる研究拠点「大阪大学みらい創発hive」が入居することが決まっています。こちらにAVITAの拠点もできるようですね?

西口:企業とのコラボレーションによる、アバター接客サービスAVACOMを導入したフラッグシップ店舗を、グラングリーン大阪のJAM BASE内にオープンする予定です。そのつながりもあって、「JAM BASE」内のコワーキングスペースにAVITAの大阪拠点をつくるつもりです。もともと大阪大学で学んでいた縁もあるので、新たなネットワークが生まれる起点になるといいなと思っています。

——大澤先生はAIやロボットの研究、西口さんはアバターを使ったサービスを開発しているということで、お互いの取り組みをどうご覧になっていますか?

西口:私は大澤先生の「ドラえもんをつくる」という挑戦は、人と人のつながりを生み出すという側面もあるのかな?と思いました。ドラえもんを中心にのび太やジャイアンなど人と人とのつながりが生まれてきたように。ただし、アプローチは我々とは違っていて、我々は人がアバターを操作して、制約を超えた人とのつながりを生み出します。例えば、高齢者の方がアバターを通じて幼稚園児に絵本の読み聞かせをするような実験をしたことがあるのですが、双方にとって良い効果がありました。かわいいアバターのキャラクターが絵本を読んでくれれば、幼稚園児は楽しく遊べますし、一方で施設にいる高齢者の方にとっても豊かな体験を提供できます。知らない高齢者が幼稚園に来ても子どもたちは怖がってしまいますし、これはアバターが大きな年齢のギャップを埋めることで実現されるものです。

大澤:あえて質問しますが、それはアバターである必要はあるのでしょうか?

西口:裏に人間がいるとわかっていても、会話の相手はアバターがいいという人も存在します。例えば、当社のAVACOMを使って、商談を行っているクライアントがいるのですが、アバター商談の売上が顔出しの売上よりも7倍も上回っています。
商談は第一印象が大きく結果に影響しますが、アバターを適切に活用することで、お客様に対して親しみやすい印象を与えることができます。またアバターで商談をするセールスにとっても、匿名性を担保した状態で緊張せず自信を持って話せると好評です。

大澤:SNSの匿名投稿に近い感覚かもしれません。

西口:そうですね。特に日本人はもともと八百万の神じゃないですが、万物に魂が宿るような世界観を心のどこかに持っているのだと思います。なので、欧米と比べて、アバターに感情移入できる人が多かったり、VTuberが日本から誕生したのもそういったカルチャーがあるからかもしれません。実はもともと私もロボットに心を感じさせるとはどういうことかを研究していた経験があります。それだけに、今この分野がどうなっているのか、専門である大澤先生に伺いたいです。

大澤:AIにはさまざまな分類があり、まるで心があると感じさせるような回答に近づける研究も一部で進んでいますが、相手の意図を読んで、回答する性能はまだまだ出ていないのが実状です。相手の意図を読むというのはどういうことか、アメリカのダニエル・デネットという心理学者は、人が他者やものの振る舞いを予測するとき、3つのスタンスがあると言っているんですね。それは、「物理スタンス」「設計スタンス」「意図スタンス」と呼ばれるものです。

「物理スタンス」は、物理法則に従って現象を予測・解釈するもの、「設計スタンス」は、設計通りに起こる現象を予測・解釈するものです。これに対し、「意図スタンス」は、相手の意図に基づく振る舞いを予測・解釈するものです。

この中でいうと、人間は「意図スタンス」で他者の行動を予測するときに「心」を感じると考えられています。相手の気まぐれな意図に依存する行動に心を感じるわけです。例えば、好意を寄せる相手に「今週末何してる?」と聞くとき、デートに誘いたいという意図があるわけですが、ChatGPTにはこういう意図は理解できないことが多い。「土曜日は、10時からヨガ教室があり……」と返すだけな場合があるようです。

西口:確かに、ChatGPTが「意図スタンス」でユーザーの期待値を予測して、気の利いた回答をすることはまだまだできていないですね。つまり、仕事のツールとしては便利だけど、心を感じる対象にはなっていない。

大澤:この分野は、「空気を読む」といった文化が根強い日本の得意領域だと思っています。ツールとして便利なだけでなく、相手の心に寄り添うようなAIが、日本から生まれてくる可能性は大いにあると思っています。

人間から仕事を奪うのは、AIではなく人間

日本大学文理学部 情報科学科准教授

日本大学文理学部 情報科学科准教授 大澤正彦


——AVITAの代表である石黒浩教授は、CGアバターによって「いつでもどこでも働ける社会の実現を目指している」と過去のインタビューで語っています。ロボットやアバターなど、テクノロジーの進展によって、10年後の働き方はどのように変化していると思いますか?

西口:馬車が自動車に代わっても運転手の仕事が残ったのと同様に、結局、人間が担う仕事はなくなりません。例えば、経理の仕事がそろばんからSaaSのツールに代わっても、そのSaaSを扱う人はいるわけです。コンビニの接客がアバターに代わっても人間が担う役割は変化して残ります。AIやアバターによって労働生産性が上がれば、人間にとっては大きなメリットがあります。

大澤:私は人間から仕事を奪うのは、AIじゃなくて、人間だと思います。例えば、あるライターが1日1本記事を書いていたとします。1日100本の記事が必要な会社は、ライターを100人雇うしかありません。そこに生成AIが登場して、ライターひとりで1日100本記事を書けるようになった。99人は不要になる。そこで、その人たちを解雇するかどうか決めるのは人間ですよね? 

つまり、AIは仕事を奪わないのです。むしろ、働いている人たちは、空いた時間に新しいことができる。仕事がなければさようならというのは、人間を労働力としか考えていない発想です。これからは、魅力的な人と一緒に働く「場」であることが会社の意義で、仕事の内容は技術の進歩に合わせて、どんどん変化していくと思います。

西口:私も仕事って、お金を稼ぐためだけのものじゃないと思っています。会社は社会とのつながりと自分の居場所を生み出す一つの道具のようなものですよね。会社や仕事を通じて、誰かの役に立ちたい、誰かを幸せにしたいと思っています。なので、流行りの「FIRE(早期退職)」なんかは僕にとっては苦痛です…(笑)。

人が集まるだけではイノベーションは起こらない

AVITA COO 西口昇吾AVITA 創業者/取締役副社長COO 西口昇吾

——西口さんも入居されるグラングリーン大阪の「JAM BASE」は、さまざまな人が集まり、大阪から新たなイノベーションを生み出す集積地を目指しています。こうしたコミュニティの在り方について、おふたりの考えをお聞かせください。

大澤:あえて厳しい言い方をすると、人が集まるだけでは何も起こらない。一方、ソーシャルイノベーターのような人がいる場所では、確実に何かが動き始めます。その差分をどう解釈すべきか考えた末、私は今「自己紹介」に注目しています。みんなが自分にできることを言語化することで、この人とつながれば何ができるかが可視化されます。

実は今、大学の授業で自己紹介を教えているのですが、効果は絶大です。学生一人ひとりが自分の強みや価値基準を言語化し、データベース化することで、ペアワークなどをAIがマッチングできるようになります。AIのようなツールを活用して、一人ひとりがより力を発揮できる環境をつくるのがコミュニティの運営には大事です。人間側の「強みの可視化」とコミュニティの最適化によって、イノベーションが生まれるのです。

西口:人が集まるだけじゃ何も起こらないというのは、本当にその通りだと思います。私も常々、「自己主張」ができるメンバーが集まって、密にコミュニケーションをして、つながりをつくることで、真のコミュニティが生まれると感じていました。大澤先生の「自己紹介」と私の「自己主張」の本質は同じです。とにかく、トンガっていてうるさい人が集まって、ぶつかり合うくらい活発なコミュニケーションができる場になるといいなと思います。

アバターを使うことで、みんなが主張しやすい環境をつくることもできると思っています。アバターを使って「自己紹介」をしたら、AIマッチングで誰かとつなげてもらえる。そんな仕組みをJAM BASEで実現できたら面白そうですね。

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開業までいよいよ1ヵ月を切った「JAM BASE」。ここでは、あえてさまざまな用途や機能を"ごちゃごちゃ"にまぜ合わせ、イノベーション創出に必要な出会いと交流を促す仕掛けを整備する予定だ。

施設全体がコミュニティ形成を後押しする「装置」となることで、スタートアップやVC、研究機関等、多種多様なプレイヤーが自己主張できる場になっていくだろう。今後どのような化学反応を起こしていくか、注目したい。


JAM BASE
https://jam-base.com/jp/

西口 昇吾(にしぐち・しょうご)◎AVITA株式会社創業者/取締役副社長COO。1991年、三重県生まれ。大阪大学基礎工学部卒業後、2017年に日本テレビ入社。2018年にVTuber事業を立ち上げ、共同代表に就任。2021年に独立し、AVITA株式会社を創業。アバターやGenerative AIを活用したDX支援サービス「AVACOM」を展開。大阪・関西万博 石黒浩パビリオンのメタバースアドバイザーを務める。

大澤正彦(おおさわ・まさひこ)◎日本大学文理学部 情報科学科准教授。次世代社会研究センター(RINGS)センター長。博士(工学)。1993年、東京都生まれ。東京工業大学附属高校、慶應義塾大学理工学部をいずれも首席で卒業。IEEE CIS-JP Young Researcher Award (最年少記録)をはじめ受賞歴多数。孫正義氏により選ばれた異能をもつ若手として孫正義育英財団財団生に選抜。著書に『ドラえもんを本気でつくる』『じぶんの話をしよう。- 成功を引き寄せる自己紹介の教科書』(いずれもPHP研究所から)などがある。

Promoted by JAM BASE | text by Kenichi Marumo | photographs by Daishi Saito | edited by Mao Takeda