人気の「トロピカル・モダニズム」の背景から考えられること

建築家ジェフリー・バワが設計したホテル・ヘリタンスカンダラマ(Shutterstock)

モダニズム建築をキーワードに、さまざまな地域で起こった政治的・文化的な試行錯誤の歴史を「散策」するのが面白いです。先月のコラムでも、近代デザインを長い目で見る面白さについて触れましたが、各地域のモダニズムにまつわるエピソードには特に、その「静謐で落ち着いた美学」とは裏腹に、時代の変化における激しいアイデンティティのせめぎ合いが詰まっているように感じます。

そう思うきっかけとなったのは、今年ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)で見た「Tropical Modernism: Architecture and Independence(トロピカル・モダニズム:建築と独立)」です。

トロピカル・モダニズムとは、名前が示す通り、西洋生まれのモダニズム建築の原理と熱帯地方特有の建築的な伝統を融合させた様式を指します。主にアジア、アフリカ、南米などに存在するこの様式は、熱帯地域の気候と各地の独自の文化やライフスタイルに応えるかたちで、20世紀半ばから登場し始めました。
フレンチ・モダニズムとインド工芸の融合として近年再評価されるLiberty Chairはインドの女性建築家ユーリー・チョウドリーがル・コルビュジエの従兄弟でチャンディガール都市計画に携わったピエール・ジャンヌレと共同設計したもの。(撮影=前澤知美)

フレンチ・モダニズムとインド工芸の融合として近年再評価されるLiberty Chairはインドの女性建築家ユーリー・チョウドリーがル・コルビュジエの従兄弟でチャンディガール都市計画に携わったピエール・ジャンヌレと共同設計したもの。(撮影=前澤知美)

実は、このトロピカル・モダニズムは近年、サステナブルかつ緑豊かな逃避感あるスタイルとして、ラグジュアリーホテルや住宅のエリアでリバイバル的な人気を博しています。

自然由来の光源や冷房システムを実現するオーペンスペース、広々としたガラス面、平らな屋根といった建物の設計と、その土地との文化的なつながりを表現する土着素材の利用など、建築とローカルの自然や文化が境目なく続いているようなデザインが特徴的です。例えば、「スリランカ建築の父」、建築家ジェフリー・バワがこのスタイルの代表格と言われています。

V&Aの展示では、このリバイバル人気の短絡さに疑問を投げかける形で、インドと西アフリカの2つの地域の独立前後のモダニズム建築の変遷から、イギリス帝国主義と脱植民地闘争の複雑な背景を探索していきます。

20世紀に顕著で「近代建築」とも呼ばれたモダニズム建築は、「形は機能に従う」という機能主義の原則(建物や物体の形状はその意図された機能や目的に関係するべきであるという考え)に基づいて設計されています。ガラス、スチール、コンクリートなどを使用した新しい建築技術の使用や、装飾を拒否したミニマリストなデザインが特徴的です。
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文=前澤知美(前半)、安西洋之(後半)

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