マーケティング

2024.08.09 10:15

担当者に聞いた「生ジョッキ缶」共創秘話、「未来のレモンサワー」 5ミリの理由

アサヒビール マーケティング本部開発プロジェクト部担当課長 大學康宏氏、田村佑貴氏

アサヒビール マーケティング本部開発プロジェクト部担当課長 大學康宏氏、田村佑貴氏

フタを「360度ぐるり」と開ける。と、缶がジョッキに変身、生ビールさながらに次第にフーっと「泡」が膨らむ──。

缶ビールなのに、泡立つ「生感」を堪能できる「スーパードライ 生ジョッキ缶」が発売されたのは2021年のこと。4月6日にコンビニでの先行発売を開始すると同時に大好評、泡立ちを生じる特殊な缶材の製造が追いつかず、2日間でいったん販売停止を余儀なくされたほどの「騒動」となった。

販売再開後も、あまりの人気に品薄の店舗が続出。市場飢餓感が募り、SNSで「(どこそこのスーパーに)あったぞ!」といった情報が頻繁に交換された。

そして今年、やはりフルオープン缶に入った「未来のレモンサワー」(プレーン・オリジナル)が発売され、話題だ。フタを開けると今度は、泡の代わりに本物のスライスレモンがふわっと浮いてくるという仕掛けは、「ジョッキ缶」とはまったく別種の感動を呼ぶ。

では、今回、新商品にも応用された「フルオープン缶」はどのように誕生したのか。

吾妻橋のアサヒグループ本社ビルに、アサヒビール マーケティング本部開発プロジェクト部担当課長 大學康宏氏、田村佑貴氏を訪ねた。


泡立ちの秘密は「フタ」ではなく、缶の「内壁」


実は生ジョッキ缶の「泡立ち」は、缶(缶胴部分)の内壁に塗布される「金属用コーティング剤」に秘密があることをご存じだろうか。

アサヒビールは10年前にもフルオープン缶を企画していた。ただ、当時あったのは果物の缶詰のフタのように「360度全開」するフタの技術だけ。「ぐるりと丸く開くフタだけで、果たして消費者の感動を呼び覚ませるか。家飲みで居酒屋の生ジョッキ感を本当に再現できるか」の指標に照らし、商品化は実現しなかった。

だが今回の超ヒット商品では、缶胴に塗料で「デコボコの加工」をするという発想と技術実装を叶えたのである。

画像提供・アサヒビール
ではなぜ、10年前は、そしてこれまでは、「缶胴」に加工をほどこす発想が実装され、市場投入されてこなかったのか──。それには理由がある。

缶の内壁に使用される製缶塗料の役割は、そもそも、「缶が腐食しないようにする」ことだ。さらに、缶ビールでは「開缶時に内容物が泡立つ」ことは言語道断、周囲の環境や使用者の衣服が液体で汚れたりする恐れがあるため、禁忌だったのである。

ところが、缶ビールの内面塗料として古くから国内トップシェアの実績をもつ企業「トーヨーケム」が、通常のビール用塗料の開発時、ある特殊な材料を使用した際、「たまたま」内容物の泡立ちが発生した。ふつうに考えれば「吹きこぼれ」という失敗が起きたのである。

革新的だったのは、その後の動きだ。同社はこの「失敗」を新しい商品に応用できないかと考えた。そしてアサヒビール内にかねてから、「缶ビールでも生ジョッキのような泡立ちを実現したい」というニーズがあることを知ってこの特殊塗料を紹介。「吹きこぼれ」というシーズが「泡立ち」というニーズと出会い、「生ジョッキ缶として実った」のである。



田村氏は言う。

「われわれは通常、製缶メーカーさんから缶を買います。『生ジョッキ缶』誕生時のように、上流の塗料メーカーさんと直接開発をした例は業界でもなかったのではないでしょうか」

トーヨーケムのHPにも、「特殊な材料を使用したことで缶の内面に特徴的な凹凸ができます。フタを開けたときの内圧開放による自然発泡が、この凹凸構造部によって増幅され、 ビールの泡立ちに関係することをアサヒビール社との研究・開発の結果、発見しました」とある。
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取材・文=石井節子 撮影=曽川拓哉(人物)

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