マーケティング

2024.08.09 10:15

担当者に聞いた「生ジョッキ缶」共創秘話、「未来のレモンサワー」 5ミリの理由

アサヒビール マーケティング本部開発プロジェクト部担当課長 大學康宏氏、田村佑貴氏

「フタ」にも工夫──温度管理は?


フルオープン缶には「フタ」にも工夫がある。通常の食品缶詰などの「切り口」にはない「ダブルセーフティ構造」で、開けてそのまま飲んでも唇や口内を切る心配がない。「この安全なフタを製造できる技術をもつサプライヤー側の資材を採用したんです」と大學氏。 
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ちなみに泡ジョッキ缶には「飲み頃は4度から8度」の表示があるが、自宅の冷蔵庫の庫内のどのあたりで保管すると、温度管理上最適なのか。

大學氏は言う。「具体的には冷蔵庫の『奥の方』、 通気口、吹き出し口の近くで直接冷気が当たる場所だと、 冷えすぎて、開缶した際に泡立ちに失敗してしまう可能性があります。また、ドアポケットに入れると、何回も開閉するので温度管理がむずかしく、また、振動も伝わるので、あまりよくないかもしれませんね」。

おもしろいのは、「飲んでいる途中でも手で温めるとまた、泡が上がってくる」という点だ。
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ちなみに、レギュラー缶のもう1つ大きいサイズの『生ジョッキ缶大生(485ml)』も発売されている。缶の内壁面積がより広い、塗料が吹きつけられている面積が大きいので、より泡立ちやすい。

「アルコール飲料缶の中に果実」は世界初


そして今年、「未来のレモンサワー」が発売された。こちらもフルオープン缶。ただこちらは、開缶しても泡は立たない。

「『未来のレモンサワー』の内壁には、ビール製品と同じ内面塗料が均一に噴きつけられています。つまり、スーパードライと同じ缶胴です」と田村氏。



フルオープンのアルコール飲料缶の中にレモンスライスを入れる試みは実に「世界初」とのことだが、この商品の1番の価値は、なんといっても「開けた時にレモンが浮いてくる」ことだ。

このレモンの形状、最初は「櫛形」が考えられていたという。だが、80名いた研究開発チームメンバーが試行錯誤した結果、発売時の「薄切り形」に落ち着いた。田村氏は次のように言う。

「なんといっても『お客様の感動』を指標にした時に、形状がスライスになった。ふわっと浮いてくる形、を考えたんです。

さらに、効果的に浮いてくるのはどれくらいの厚さかも、社内で長時間かけて検討しました。実は5ミリより薄くても浮いてはくるのですが、それだと今度、ロボットがベルトコンベアから高速で1枚ずつアームで吸い上げる時点で壊れてしまったりする。生産適正にも鑑みて、5ミリが最適となりました」

最後に、大學氏がこんなことを話してくれた。

「『未来のレモンサワー』もおかげさまでヒット商品になり、大量生産が必要になったので大手の東洋製罐にも協力を仰ぐことになったのですが、話題作りも狙って缶のデザイン企画を考えた時に、この東洋製罐さんが、高度な技術でその企画を実装してくれました。

このように、缶に描かれたレモンのイラストを4種類、描き分けてくれたんです。並べると、ほら、左から、ふわーっと浮き上がっていく様子がわかるでしょう。
画像提供・アサヒビール

レモンは生物なので、1枚1枚違う。だから、缶にも1本ずつ個性がある。そのコンセプトを伝えるデザインになっています」

──失敗をシーズととらえてメーカーのニーズとつなげた塗料メーカー、「消費者が感動している」イメージから逆算し、「吹きこぼれ」を「泡立ち」に転換したビールメーカー。そして「生果物入りアルコール飲料」という無二性にとどまらず、大量生産なのに「1本1本違う」という商品特性をパッケージで表現した製缶メーカー。

ヒット商品の裏にはまさに、作り手たちの出会いと共創のストーリーがあった。

取材・文=石井節子 撮影=曽川拓哉(人物)

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