「缶を回転させながら缶の内壁に『スプレーで吹きつける』イメージですね」と田村氏は言う。
「おのおのの(製缶)メーカーの設備によりますが、塗料を手前側に吹きつけるノズル、奥を狙って吹きつけるノズル、など、スプレーするノズルが2つか3つあるんです。さらにはノズルによって噴霧する圧力を変えている。この塗料ならこの圧力で塗布する、という技術を製缶メーカーは持っています。そして複数のノズルから同時に、円形にシュワっと塗料を出すと、手前にも奥にも噴霧できる感じです」
では、通常は「均等に吹きつけて」いた塗料を、泡立ち缶ではどうやって不均一に吹きつけるか。
ここにはノズルの形状や場所ではなく、「液」側に秘密がある。田村氏の説明によれば、塗料メーカーは今回、缶の腐食を防ぐための通常の内面塗料に、泡立ち缶にするための特別成分をもう1つ加えた。そこに、製缶メーカーが持っていた設備、技術が機能する。
「製缶メーカーで塗料を噴霧する際、通常の(泡立たない)缶の製造工程でも、内面塗料を固定化するためにオーブンで『焼き付ける』工程があるのですが、今回特別に加えられた『泡立ち成分』はこの焼き付け工程で溶解する。そして、溶けたところはへこむ。それで、缶胴の内壁が凸凹になるんです」
「生ジョッキ缶」の製造には、「製缶メーカー」が持っていた従来の設備も不可欠だったわけだが、ここで注目すべきなのは、「泡立ち缶」の製造のためには、設備自体は変える必要がなく、内面塗料の液だけを取り替えればよかったという点。製缶メーカー側に大規模な設備投資が不要であるという点も、今回の「泡立ち」塗料のすぐれた特性でもあるのだ。
あまり知られていないが、遡ること40年前の1985年、サントリービールからすでにフルオープン缶は発売されていた。
この商品には「クリップ」がついていて、消費者が自ら缶を叩き、その衝撃で泡立たせるという仕様だった。「缶胴の内壁」に秘密があるアサヒビールの泡立ち缶とはメカニズムが違ったこともあるが、売れなかった。
「当時は『家で生ジョッキのようなビールを』という消費者ニーズがまだなかった。時代とマッチしなかったこともあるかもしれないですね」と大學氏は話す。