現在69歳の鍾の保有資産は540億ドル(約8兆7000億円)で、そのほとんどは香港市場に上場する農夫山泉の持ち株によるものだ。昨年11月のフォーブスのランキングで、3年連続で中国一の富豪に選ばれた彼は、今でもその地位を維持しているが、農夫山泉の株価は約2カ月前から30%下落し、過去最低を記録している。
杭州に拠点を置く農夫山泉は、主力商品のミネラルウォーターに加えて、精製水カテゴリに進出したが、その新たな製品ラインの価格は、1本あたり1元(約22円)未満と、2元で売られるミネラルウォーターを大幅に下回っている。アナリストは、農夫山泉が国営企業の華潤創業(チャイナリソース)や、同じく杭州に拠点を置く娃哈哈(ワハハ)グループなどの競合他社から市場シェアを奪おうとしていると述べている。
しかし、農夫山泉には収益性についての懸念が生じている。「農夫山泉は、精製水カテゴリで主要なプレーヤーとなり競合他社を脅かすまで、価格競争を止めないことが懸念される」と、北京の投資銀行Chanson&Coのアナリストは述べている。
市場はこれまで、農夫山泉の利益率の高さに慣れていた。急成長を果たした同社の株は、急成長するハイテク大手と同様の30倍を超えるPER(株価収益率)で取引されることが多かった。
農夫山泉の昨年の純利益は、前年から40%以上増加して120億元(約2660億円)に達していた。売上高は28.4%増の427億元(約9352億円)だ。しかし、香港のリサーチ会社Morningstar(モーニングスター)のアナリストによると、今年の売上高は3月に始まった消費者の反発で既に打撃を受けているという。
中国の愛国的なネットユーザーは、3月に農夫山泉を率いる鍾に愛国心が欠けていると非難し、同社の製品のボイコットを開始した。また、ユーザーの一部は、農夫山泉のボトルのパッケージに日本の寺の写真が使用されていることを批判し、デザインの一部が「靖国神社の鳥居の形に似ている」と主張した。
その結果、農夫山泉の製品の売上高は、4月と5月に減少したとアナリストは述べている。モーニングスターは、同社の2024年の売上高成長予測を18%から16%に引き下げた。
しかし、農夫山泉にはまだ大きな強みがあるとモーニングスターは述べており、同社のお茶関連の製品の急成長と、強力な流通ネットワークを指摘した。農夫山泉は、砂糖不使用のボトル入りのお茶製品をアピールすることで、健康意識が高い消費者を取り込めると同社は述べている。
「農夫山泉のパッケージ入り水製品の売上への寄与は近年減少しているが、その一方で、お茶が同社の成長の大部分を牽引している」とモーニングスターのアナリストは語った。
(forbes.com 原文)