大したことないように思えるかもしれないが、このインフレは商品先物取引に複合的な影響を及ぼしている。ゴールドマン・サックスの調査によれば、歴史的に見て米国のインフレ率が1%ポイント上昇すると、コモディティの実質リターンは7%ポイント上昇するが、株式と債券はそれぞれ3%ポイントと4%ポイント下落する傾向がある。
このデータは、インフレヘッジとしてのコモディティの可能性を裏付けている。物価上昇時には、銀、石油、金などの有形資産へのエクスポージャーを高めるほうが、ペーパー資産よりも価値を維持できる場合が多い。
ここで銀、石油、金を取り上げたのは、2024年上半期に最も良好なパフォーマンスを示したコモディティだからだ。では、何がこのトレンドを推進しているのか、それが投資家にとってどのような意味を持つのかを考えてみよう。
銀市場、4年連続の赤字は好機の兆し
好調な市場トレンドを牽引するのは銀で、上半期に22.5%近く上昇した。世界的な供給不足と需要増が追い風となり、「貧乏人の金」とも呼ばれる銀の価値が改めて証明されている。国際的な銀の業界団体シルバー・インスティチュートは今年1月、世界の銀需要が年内に昨年比1%増の12億オンスに達するとの予測を明らかにした。この伸びは主に産業用途、特に活況を呈している太陽エネルギー分野に牽引されている。
銀の構造的な市場赤字は4年連続となる。供給不足は17%拡大し、2億1530万オンスに達する見通しだ。需要が供給を上回れば、価格は高騰する。
石油の供給過剰は起こるか?
13.8%の上昇を記録し、上半期で2番目に高いパフォーマンスを示した石油は、世界経済においてその持久力を誇示し続けている。電化が推進されている中でも依然として、石油需要は旺盛だ。国際エネルギー機関(IEA)の最新報告によると、大きな転換点が迫っている。世界の石油需要は2023年には日量1億200万バレル強だったが、2030年までに日量1億600万バレル付近で頭打ちになると予想されている。この需要の停滞は、世界の石油生産、特に石油輸出国機構(OPEC)とOPEC非加盟産油国で構成する「OPECプラス」以外の産油国による生産の急増が予測される時期と重なる。
この予測が意味するところは大きい。石油の供給過剰がコロナ禍を上回るおそれがあるのだ。この見通しは石油価格に下方圧力をかける可能性がある。