経営・戦略

2024.07.18 13:30

地政学リスク分析のプロに聞く、日本企業に投資をしたがる「彼らの事情」

中立的な立場で、偏らない投資を

ヒト・モノ・カネのハブ都市となるなかで、地球規模の課題を議論するリーダーシップ、さらに研究開発分野でリードする政策を続けてきた。特にドバイは同国の石油埋蔵量が枯渇する計算のもと、脱石油輸出依存の経済をつくる政策を取ってきた。そのため、エネルギー関連を中心に日本の先端分野への関心も高く、日本の中小企業(SMEs)に対するUAEからの投資が相次いでいる。例えば、ペットボトルを100%燃料に変える川崎市のJEPLAN。同社は再生プラスチック工場をUAEと合同で建設する。日本の再生エネルギー事業やグリーンエネルギー・プロジェクトに注目しているUAEの投資家が多いとも聞く。カメルはこう話す。

「もともとUAEは常に投資をダイナミックにとらえています。エクスポージャー(ポートフォリオのうち市場の価格変動リスクや特定のリスクにさらされている資産の割合)に地理的な偏りをなくすことにも、力を入れています。日本のことは以前から、多くの分野において世界に対する貢献度が高い先進経済だとみてきました。だから、日本のSMEsに対する投資が増えることは驚きではありません。
 
再生可能エネルギー分野への投資については、世界的な重点事項となっており、湾岸諸国の政府系、非政府系のファンドはどちらも、この分野に関心をもっています。日本のグリーン・プロジェクトへの期待度は高い。科学技術の進歩が、投資家に長期的なリターンをもたらすことになると見込んでいます」
 
日本企業に対してはUAEとの連携だけでなく、ナスダックやロンドンでの上場を推奨している。一方、「紛争などの文脈から欧米諸国への投資が一部困難に直面しているのは確か」と言う。では、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとハマスの戦闘が続く現在、ドバイの政治的な立ち位置はどうなっているのか。カメルが言う。

「外交政策の方針は、アブダビ首長国の首長でもあるUAEのムハンマド・ビン・ザイド・ナヤハン大統領が定めています。ロシアのウクライナへの侵攻、イスラエルとハマスの戦闘に関して、UAEは中立の立場をとっている。それは、UAEが幅広い国々や機関との関係の維持を重視しているためです。中立の立場で役割を果たすことが、異なるアクターたちとのオープンなコミュニケーションを維持し、同時に経済的利益を守るための最善の方法だと考えています。政治的には、UAEから切り離して考えることはできませんが、『世界で最もビジネスに優しい法域』として、ビジネス・ファーストの戦略は変わりないのです」


エイハム・カメル◎ユーラシア・グループ 中東・北アフリカ地域担当責任者。同地域における米露の影響力、エネルギー政策、テロの脅威、経済トレンドなどを専門にする。ワシントンD.C.本拠の中東研究所で防衛・安全保障のアドバイザリーボードを務める。

文=フォーブス ジャパン 翻訳=木内涼子

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