小山薫堂(以下、小山):直球の質問で恐縮ですが、現在の年商はどれくらいでしょうか。
河本英雄(以下、河本):約280億円です。コロナ禍で大打撃を受けましたが、それをなんとか戻していっている最中です。
小山:普通、それだけ売り上げのある企業だと、綺麗事だけでは経営できないと思うんです。でも、河本さんは利己主義に走りませんよね。製造工程での添加物の不使用を実現したり、フードテック系スタートアップ企業を支援する組織の設立を主導したりと、利他的な経営をされている。
河本:そう言われると嬉しいですね。でももともとスポーツが好きで、勝ち負けにすごくこだわる人間だったんです。特にユーハイムに入社した当時は売り上げが落ちていたのもあって、どうしたら同業他社に勝てるかばかりを考えていました。
小山:意外です。実際に勝てましたか。
河本:ええ。2012年にバブル期を超えて過去最高益を更新しました。ただ、15年に社長に就任したあと、ちょっとずつ落ち始めて……。そんなときに、経営学者の米倉誠一郎先生の講演を聞く機会があり、打ち上げに参加したら、「君、顔があまり幸せそうじゃないね」と言われたんです。
小山:(笑)。見抜かれてしまった。
河本:ええ。「幸せとは何か」というテーマで喧々囂々、朝まで飲んだのですが、先生は当時、南アフリカのプレトリア大学日本研究センター所長を務めていて、「BOP(Base of the Pyramid=1日2ドル以下で生活する貧困層)について講義をするから、聞きにこないか」と誘われたんですね。それで翌月、行きました。
小山:世界で約40億人いるといわれるBOPの生活支援や自立は大きな課題ですよね。どのような講義だったのですか。
河本:それが教室ではなく、現地最大のスラム街に連れていかれたんです。粗末なバラック小屋のひしめき合うなかにお菓子屋さんがあって、原型を留めていない綿菓子や溶けた飴玉、黴びた麩菓子の袋詰めなんかが乱雑に置かれていました。
小山:美しいショーケースに並んだユーハイムのお菓子とはぜんぜん違う。
河本:正直「こんなの誰が食べるんだろう?」と思い、店にやって来た男性に尋ねたところ、「年に一度、子どもの誕生日に親が買うんだよ」と。その瞬間、背中に電気が走って、それこそがお菓子の原点なんじゃないか!と思ったんです。その場にいた子どもにも「誕生日にもらったら1年かけてちょっとずつ食べるの?」と訊くと、「ううん。その日に友達とみんなで食べるんだ!」って。親子の絆や友情というものが、そのお菓子にはありました。