事業継承

2024.07.24 13:30

荒廃農地を公共残土でよみがえらせる「土建イノベーション」

堀 貴紀|マルキ建設取締役

公共残土を活用して荒廃農地をよみがえらせ、そこで取れた農作物を使ったヒット商品を開発して地元を元気にする──。そんなアイデアで地域課題の解決を目指すのが、京都府京丹後市で総合建設業と農業を営む従業員37人の中小企業、マルキ建設3代目・堀貴紀だ。この3月に開催された後継者たちによる新規事業のピッチイベント「第4回アトツギ甲子園」(中小企業庁主催)の決勝に出場し、グランプリである経済産業大臣賞を受賞した。
 
公共残土とは、トンネル建設など公共工事の過程で生じる土(建設発生土)のこと。2021年7月に静岡県熱海市で起きた大規模な土石流災害が記憶に新しいが、その原因はずさんな管理で違法に盛り土をされた公共残土が大雨によって崩れたためとされている。この災害を受けて23年5月に規制を強化する法律が施行されたが、全国で年間東京ドーム約47杯分にも及ぶ残土の処分場は慢性的に不足状態だ。

一方、長い間耕作や管理が行われず、通常の農作業では再生困難とされる荒廃農地も、継承者不足などの要因により年々増加している。その面積は全国で約19.2万ヘクタール。まさに大阪府に匹敵するほどの広さだ。宅地や商業地などに転用しようとしても、現行の法律ではハードルが高い。公共残土と荒廃農地の問題は、堀の住む地域だけでなく、日本全体が抱える大きな共通課題でもある。
 
通常、工事現場で出た公共残土は、「トラック1台分で○万円」というように事業者に費用を支払い、処理を依頼する。マルキ建設はほかの建設現場から出た残土の受け入れ・処理も行っているのだが、残土処分のルールは複雑だ。自治体が定めたいくつもの法令に従い、盛り土をした場所に地下水を逃がすための排水施設や雨水流出を抑える調整池・沈砂池を同時につくらなければならないケースも多い。そうやって時間をかけて造成し、最後には植樹をして自治体に返還することになるのだが、堀は常々「多くの手間やお金を費やして、結局土を山に返すだけなのはもったいない」と感じていた。
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文=堤 美佳子 写真=吉澤健太

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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