このギャップをできるだけ埋めるため、ロシアは冷戦時代の古い戦車を長期保管施設から引っ張り出し、修理し、一部は改良も施して、ウクライナの前線に送り込んでいる。保管されている戦車は基本的に屋外に置かれているので、商用衛星画像で確認でき、数を数えるのもかなり容易だ。
ロシアが再利用している戦車には、1950年代に開発されたT-55、1960年代に開発されたT-62、それ以降に開発されたいくつかの型式のT-72とT-80などがある。奇妙なのは、T-72の場合、1970年代に開発された最も古い型式のT-72ウラルとその改良型のT-72Aがほとんど含まれていないことだ。T-72ウラル/Aはそれ以降の型式のT-72よりも装甲が薄く、射撃統制装置の性能も低い。
OSINTアナリストのHighmarsedの分析によると、ロシアがウクライナに対する戦争を拡大した2022年2月から2024年半ばまでに、T-55の在庫は31%、T-62の在庫は37%減り、T-80Bの在庫にいたっては79%も激減した。ところが、T-72ウラル/Aの在庫は9%しか減っていない。ロシアは「T-72ウラル戦車とT-72A戦車はあまり多くの数を(衛星画像で見える屋外保管施設から)取り出していない」とHighmarsedは説明している。
補足しておけば、さびついた戦車であっても再生は可能だ。車体のさびや汚れを除去・研磨し、鋼鉄製以外の部品をほぼすべて交換すればいい。Highmarsedは「十分な資金と時間、スペアパーツがあれば、おそらくどんな戦車も再整備できるだろう」と述べている。
もっとも、オーバーホールに近いこうした修理には非常に長い時間がかかり、費用もかさむ。古い戦車がとくに傷んでいる場合、高い費用をかけて直すよりも、その費用で新しい戦車をつくるほうが得策だろう。Highmarsedによれば、保管施設に合計で1000両ほど残っているT-72ウラルとT-72Aは「状態が悪い」可能性もある。
しかし、ロシアは70年物のT-55や60年物のT-62には予算を投じて修復しているのに、それより新しい50年物のT-72ウラル/Aはなぜそうしていないのだろうか。答えはおそらく、自動装填装置の有無にある。T-55やT-62は装填手1人を含む乗員4人の仕様だが、T-72は自動装填装置が搭載され、乗員は3人に減っている。